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第6話

 Bar chassis en acierの店主から教えてもらったPremier Amourは目と鼻の先にある観光客らがよく行く酒場で、ブルーと白を基調としたライトアップが洗練さを演出していた。  ルスティが店に入ろうとすると、着飾った男女の客がちょうど出て行くところで、ルスティは場違いさを覚えるが、青いライトで照らされたフロアを進み、白のライトでアクセントのつけられたカウンターへと進む。  カウンターにはルスティくらいの若い男がいて、ルスティを見ると、会釈した。 「いらっしゃいませ」  声色は多少、あの頃よりは低くなったのだろうか。  ただ、キリリとしたシャープな声質は変わらず、ベージュとも淡い金色ともとれる髪。  それに、10年前、ルスティが助かりたい一心で手を伸ばした空の色でも身体を持っていかれていく海の色でもない深い青色の目はあの時の青年に限りなく近かった。 「貴方は……」  ルスティは目の前の男に聞かなければならないことがある。そして、もし、聞くべきことを聞いて目の前の男があの時の青年だと確信が持てたら、言いたいこともある。  だが、情けないことに必要な言葉は何も出てこなくて、カウンターの前で立ち尽くす。 「とりあえず、何か、出しましょうか」  カウンターの男はそう言うと、ブルアガヴェを注ぐ。ブルアガヴェは先程も飲んだが、先程のバーのグラスは素気のない感じがしていたのに対して、カウンターに置かれたグラスはシンプルながらも店のロゴが彫り込まれた洒落たものだった。 「ありがとうございます」  ルスティはまたもや、自分が汗水垂らして運んだブルアガヴェを飲むと、カウンターの男は微笑む。  カウンターの男はアンセオ・メルラーという名前で、元々、この島の出身の船乗りだったが、モンドブルのホテル業で成功して、若くしてこの島に帰ってきたのだと言う。

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