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第1話

 木曜日、午後の2時を回った頃。  必ずではないものの、その曜日と時間に来店する客に青年は好意を抱いていた。 「どうもありがとうございました」  青年の名前は木村京吾(きむらけいご)で、職業はパティシエであり、ガテオというケーキ屋で洋菓子を売る販売人であり、土日には洋菓子の作り方を教える講師であった。  最近では、持ち前の手先の器用さから近所の奥様方から頼まれて、簡単なフランス料理から本格派のDIYまで教えていて、木村自身も就いている職業を人から尋ねられると、「一応、ケーキを作って売っています」と答え、困るくらいだった。 「さて……」  木村は店内にいた最後の客にケーキを渡し、その客が店を出るのを待ってから時計を見た。 必ずではないものの、本日は木曜日で、現在は午後の2時前。もし、今日も来店するのであれば、もうすぐ、彼が来る筈だった。 「トックブランシュは良し! 髭も伸びていない! 店の前も問題なし!」  木村は店内の鏡で自身の見なりが整っているのを確認し、店外にもゴミや落ち葉がないのを確認する。そうこうしていると、店の中と外を繋ぐガラス製の扉が彼の人柄を示すようにゆっくりと開いた。 「いらっしゃいませ」  木村はわざとらしく焼き菓子の入ったバスケットに手をかけていたのを離すと、そそくさとケーキやプリンの並ぶショーケースの奥へ移動する。  薄いブルーのワイシャツに、紺色のスーツ。涼し気な目元に、少しウェーブのかかった亜麻色の髪と額の広い理知的な顔立ち。背はフランス人の職人と比べても、差のなかった木村と並ぶと、やや低いものの、日本人としては高身長だ。 「いつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます」  これも必ずではないものの、彼はいつも5人分のプリンやゼリー、シュークリーム、クッキーやマドレーヌといったものを買ってくれている。 「いえ、いつもプリンやゼリーばかりで……ケーキも凄く美味しそうなのに」  彼の買っていくものはケーキと比べると、やや安価で、売り上げが2000円未満の時も少なくない。だが、週に1回、しかも5人分も買ってくれるなら、お得意様と言っても差し支えないと木村は思っていた。 「そんなことはありません。ただ……」  木村の店で売っているプリンは素材の新鮮さを生かしたシンプルな味わいが売りの硬さの違う2種類のプリンだった。一方、ゼリーは厳選した珈琲で作ったゼリーか季節のフルーツを使ったゼリーが並ぶが、毎回、彼は違うものを買っていくとは言え、飽きがきているのではないかと木村は考えていた。

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