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第6話
「あ、お菓子です。ガデオのお菓子は最高ですからね」
ハハハ、と大隅は笑うと、木村も笑う。
期待などしない。でも、期待してしまいそうになる。期待して、それが違っていたら、傷つくのに。
木村と大隅は大学の正門まで行くと、17時でも少し明るかった。段々、暗かったのが春を近づいてくる度に明るい時間も増してくる。
「良かった。まだ明るい。俺、冬って嫌いじゃないんですけど、日が長くなるのって良いですよね」
「ええ、僕も冬は嫌いじゃないです」
「先生もそうなんですね。まぁ、クリスマス……や送別会とか、あるから夏までは忙しいですけどね。かき入れ時はありがたいですけど、たまには冬に旅行とか行ってみたいし」
「そうですね……」
「今日はありがとうございました。俺、実は勉強とか苦手で講義とか寝てたら、どうかと思ってたんですけど、凄く楽しかったです」
木村は正門に近づいて、途端に口数の少なくなった大隅に当たり触りのない話をして、別れようとする。
すると、大隅は木村の腕を掴んだ。
「せ、先生?」
木村は狼狽したように大隅を呼ぶと、大隅はいつかの木村のように慌てて木村の腕を離す。「車とか来てましたか」と声をかけたり、何かありましたかと確認したりしたいのに、言葉が思ったように出てこない。
「すみません……突然……」
大隅は大隅で、何とか木村に詫びるが、まるでいつか大隅は木村の店で買ったゼリーに浮かでいた苺やフランボワーズのように顔を赤らめている。
「あの、轢かれそうになったのを助けていただいたり、講座の後片づけをしてもらったり、お菓子をくれたり、色々お礼をしたいので、うちへ来ませんか?」
空はじきに暗さを増すし、辺りはまだ冬の気配が漂っている。
だが、町中は仲の良さそうなカップルや家族連れがいて、冷たいばかりの雰囲気でもない。木村と大隅は大学を出ると、暮れてゆく夕闇の町を歩き出した。
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