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第5話
「どうもバタバタしてしまって、すみませんでした」
講座は途中、筆記用具が足りなくなってしまったこと以外は順調に進んだ。講座が終わり、学生も帰すと、大隅はやっと落ち着きを取り戻してきた。
「というより、つい僕達の講座に連れていってしまって。その上、成り行きとは後かたづけまでさせてしまって……」
講座の終了後、ブラウニーを大隅達に渡そうと、木村はどの受講者よりも残っていたこともあり、劇で使った暗幕や小道具を大隅達と研究室まで持っていって、木村は学生達に赤や金色のラッピングリボンのついた袋を渡す。学生達は口々にお礼を言い、おのおのバイトや飲み会の予定が入っているらしく、丁寧に大隅と木村に挨拶をすると、帰っていった。
「あ、これは先生に。ちょっとだけなんですが、チョコレートのブラウニーとチーズケーキのブラウニーです」
季節的にバレンタインデーやホワイトデーを見越したブラウニーだということで、木村は「試作品で申し訳ないですが」と強調する。確かに大隅のことは好きで、ブラウニー自体も手を抜くことなく心を込めて作ったとは言え、こんな一口のブラウニーがたったの2切れなんて、本命にするバレンタインの贈り物だとは決して言えない。
お得意様に試作品を渡す以外の他意はなかった。
「ありがとうございます。木村さんから頂けるなんて嬉しいです」
大隅はお礼を言うと、一瞬、固まったようになる。
意味深といえば、意味深だったかも知れない。木村も一瞬だけバレンタインの意味で大隅が受け取ってくれたのかと変な汗をかいてしまう。
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