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第1話
「おー、おつか……おおおいっ!」
インターホンに応えてドアを開けてくれたその人に、俺はなにも言わずに抱きついた。
靴を踏んづけただけの片足立ちだったというのに、俺より小さな体は一歩下がっただけでちゃんと俺を受け止めてくれる。
俺の年上の幼なじみ、陽太 くん。
180センチある俺より10センチほど小さい(陽太くんは9.5センチだと言い張る)けど、五歳大人の頼もしい幼なじみ。陽太くんも帰ってきたばかりなのかスーツ姿のままで、いつもよりもさらに大人っぽくてかっこいい。
対して俺は、外を歩くには少し寒いオーバーサイズのパーカーと、細身のデニム。染め直したばかりの髪色はサラリーマン役には適さない明るさ。
アイドルという職業上、かっこいいとよく言ってもらえるけれど、俺にとって一番かっこいいのはやっぱり陽太くんだ。
「びっくりしたぞおい。なんだよ一華 」
「充電」
出会い頭で抱きついた俺の背中を、呆れたようにぽんぽん叩いてくれる陽太くん。その陽太くんの肩に顔を埋めて、大きく息を吸い込む。
もちろん陽太くんだって仕事で疲れているだろうし、そもそもまだスーツも脱いでいない。たぶん言いたいことはたくさんあるだろうに、それを飲み込んで頭を撫でてくれる優しさに存分に浸る。
最近は仕事が忙しくて全然陽太くんに会えなかったから、少しでも多く充電したい。犬や猫を飼っている人にはとりあえずいっぱい吸いたい気持ちをわかってもらえるんじゃないだろうか。
「わかったからとりあえず上がれ。寒いだろうが」
「……お邪魔します」
促すようにもう一度背中を叩かれ、渋々陽太くんから離れた。
そんな風にして改めて靴を脱いで家に上がった俺との身長差に、陽太くんはわかりやすく不機嫌な顔をする。
「ったく、昔はオレより小さかったくせに、図体ばっかでかくなりやがって」
「俺は小さいままが良かった」
「お、なんだそれは。オレへの嫌みか?」
そんなことを言いながらも俺の手を引いて中へ導いてくれる陽太くん。昔もこうやって手を引かれて、その大きな背中を見るのが好きだった。ずっとそのままでいたかった。嫌みなんかじゃないまぎれもない本音だ。
成長して陽太くんはすっかりと大人になったけど、俺の中身も気持ちもあの時のまま。
「飯は? 食ったか?」
「食ったけどオムライス食べたい」
「しょうがねぇな。ちょっと待ってろ」
子ども扱いの態度にちゃっかり甘えて、勝手知ったるソファーに倒れ込むようにして寝転がる。その格好のまま、ジャケットをハンガーにかけてシャツの袖をまくる陽太くんを眺めた。シャツの腕まくりってどうしてこうもかっこいいんだろうか。
なにより俺のためにオムライスを作ってくれようとする姿がかっこよくないわけがない。
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