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第2話
「今日もいっぱいの人に好かれてきたか?」
「うん。カメラマンさんが女の人だったんだけど、仕事用とは違う電話番号書いた名刺貰った。あとメイクさんにも」
手際よく材料を用意してカットしていく鮮やかさを横向きで眺めながら、今日あったことを報告する。
人に好かれるのも仕事のうちというか、むしろそれが仕事のアイドル稼業。
ここで「全然」なんて言うのは、謙遜どころか仕事を頑張っていない証拠だ。
「相変わらず羨ましいモテっぷりだな、今をときめくアイドル様は」
というかそんな状況に置かれている俺に対して、もっと違うリアクションを欲していたんだけど。陽太くんは振り向きもせず軽く流してみせる。
ちょっとくらい、俺が取られちゃうんじゃないかとやきもきしてくれたっていいのに。大人の余裕がずるい。
「まあ全部マネージャーに渡したけど」
「もったいねー」
結局俺の方が耐え切れなくなってなんとも思っていないことを付け足したけど、笑い声が返ってきただけ。まったくもって相手にしてもらえない。
「あ、あと、なんか撮影見にきた偉い人に今度飲み行こうって誘われた。美味しいお肉とお酒のお店紹介するよって」
「……それはちゃんとマネージャーさんに話を通しなさい。お前は酔っ払うと危ない」
「人前でそんな飲まないよ」
「いいから。そういう場所は行っちゃダメ。約束しなさい」
俺よりちっちゃいし若く見られるせいで俺の弟だと間違われることもあるくせに。こういう時だけ大人ぶる陽太くんにむくれ顔を返す。チキンライスを炒めながら肩越しに振り向く陽太くんは、俺が頷かなければ卵で包んでくれない気だ。
そりゃあ陽太くんと一緒だったら飲むし酔っ払って楽しくなっちゃうけど、俺にだって分別くらいある。人前で前後不覚になるほど飲んだりしない。本当のお兄ちゃんみたいに、そういう心配の仕方をしてほしいんじゃないのに。
「わかった。行かない」
「よし。だったらとろとろ卵をかけてやろう」
俺がはっきり約束したからか、満足げにできたチキンライスをお皿に盛ってから片手で卵を割り始める陽太くん。
……たとえば俺に彼女ができてもこんな感じなのだろうか。
茶化して軽く流して、なんなら喜んでくれたりもするかもしれない。その上で実はいた彼女なんか紹介されたらどうしよう。
自分で勝手な想像をしてへこんで、嫌な気分でクッションに顔を埋めた。
モテるのは仕事。モテてるのも本当。
でも、どれだけいっぱいの人に好かれても、肝心な人に好きになってもらえなきゃ意味がないんだよ陽太くん。
……なんて、冗談でも言えやしない。現在進行形の初恋の相手になんて絶対。
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