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第3話

「ほらできたぞ。運ぶくらいしろ」  眠いふりでクッションに顔を埋めたままでいたら、そう声をかけられて体を起こす。  拗ねていたって、せっかく陽太くんが作ってくれたオムライスを冷めさせるわけにいかない。 「おいしそう。作ってくれてありがと」 「きらめく笑顔でオムライス代を清算するな。でもお礼が言えるのは偉い」  二人分のお皿をテーブルに運ぶ俺の頭を、手を伸ばして撫でてくれる陽太くん。身長が逆転してもちっちゃい子扱いは変わらない。それが嬉しいやら複雑やら。  ともあれソファー前のガラステーブルにお皿を置いて座ると、陽太くんも自分の分の発泡酒の缶を手に隣に座った。肩が触れて、ほんのちょっとだけ体が跳ねる。いつからか、これだけのことで緊張するようになってしまった。ステージに立つ時は全然なのに。  陽太くんが缶を開けたところで、いただきますと手を合わせてとろとろ卵のオムライスを一口。  砂糖多めで少し甘めの卵と酸味のあるトマトケチャップ、それと玉ねぎの甘みが程よいチキンライスが口の中で混ざり合って幸せの味がする。手作りならではの、俺の好みが詰まったオムライスはいつ食べてもおいしい。 「陽太くんのオムライスほんとおいしい」 「いくらでも他にうまいの食べてんだろうが。まあうまいと言われて悪い気はしないけどな」  本心を口にしただけで、また頭をぐりぐり撫でられる。得意げな顔がまたかっこいい。  そんな風に見ていた先の顔が、ふと訝しげに歪んだ。 「……お前、なんでそんなマンガみたいつき方すんの?」  得意げだった口で呆れたため息をついて、俺の唇の端を拭う陽太くん。どうやら大口で頬張ったせいでケチャップがついていたらしい。  ティッシュを探すのが面倒だったのかそのままケチャップのついた指を舐めとられて耳が熱くなった。  今までだって何度となくされてきたことだけど、それでもこういうことをされるといちいちきゅんとしてしまう。ドラマとか雑誌の撮影とか、数えきれないくらい同じ仕草をしてきたというのに、実際されるのはやっぱり全然違う。  かっこいいし間接キスだし。  ……いいな、陽太くんとキス。ロマンチックなキス、してみたいなぁ。それこそドラマみたいな……と考えて、それの連想で思い出したことを窺いつつ口にする。 「今度ドラマでキスシーンあるんだけど」 「今やってるやつか? なんだ、羨ましがれって?」  どんなことだったら少しは気にかけてくれるのか。  ちょっとくらい嫉妬してくれないかなと撮影の話を持ち出すと、陽太くんは食べる手を止めて口を歪ませた。  さっきの名刺の話といい、ちょっとしつこかっただろうか。  ちょっとぐらい、「じゃあキスの練習でもするか」なんて展開に夢見たのにな。  隠れてしょんぼりする俺に、陽太くんは突然なにかを思いついたようにいたずらっ子の顔で笑った。

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