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「金木犀」

「なんかさぁ。最近歩いてると イイ匂いするよな」 「ん? そぉか?」  きょとんとしている啓介。オレはちょっと呆れながらその顔を見上げた。 「お前って、ほんと情緒ないよな」  その言葉に、啓介はちょっとムッとする。 「失礼やな?」 「だってほんとじゃん」  クスクス笑いながら歩いてると、通りがかりの家の木に目が留まった。 「何だっけ、これ。このイイ匂い、この花だな~」  息を吸って、匂いをかいでから、啓介を振り返る。 「全然しらんなぁ……」  一言で返されて、そうだよね、と、ちょっとため息をつきつつ、首を傾げる。 「……金木犀、て言ったっけ?」  あまり自信なく、そう言った直後。 「それって、トイレの芳香…」 「言うな、最後まで」  はー、と深くため息。 「やっぱりお前、情緒なさすぎる」  啓介を一瞥して、オレは歩き出した。 「ちょお待てって……」 「ついてくんなよ、まじで離れてて」  啓介はちょっと苦笑い。 「怒んなや。冗談やんか」 「……冗談だった?」 「いや……冗談ちゅーか、それしか浮かばなかった、ちゅーか……」 「はー……」  ため息をついて、また通りがかった金木犀をちらりと見やった。  すげー、いい匂いなのに。 「……ほんとそういう情緒とかなさすぎて、啓介、やばいよ?」  そう言うと、啓介はクスクス笑って、隣に並んできた。 「もー隣くんな」  啓介に、 あっかんべーをして見せると。 「あ、可愛ぇな、それ♪」 「……はぁ?」 「べーって もっとしてええよ」  啓介の笑顔と言葉に、オレは、真顔。 「……情緒ない上に、変態じゃタチ悪すぎ……」 「ええやん。可愛ぇ言うとるだけやんか」  明るく返してくる啓介に呆れて、深くため息。 「……もー……マジで、馬鹿……」  啓介はおかしそうに笑うと、オレの隣に並んで、金木犀を見上げた。 「花の香りなんてどーでもええし」 「……それ以上何も言うなよ」  何か嫌な予感がして、睨む。が、しかし。 「オレ 何つっても、雅己の匂いが 一番好きやしなぁ」  オレの視線などものともせずに、そう言ってのけた啓介。  もう真顔を通り越して、もー、ほんと、いや~な顔になってしまう。  ――――……金木犀の やわらかな 香りの中。 「もー、お前、オレの側くんなよっ」  辺りに、オレの声が響きわたった。  ☆ Fin ☆ (2022/9/29) 一昨日、今年初の金木犀の香りがしたので、更新♡

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