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店の子

「ねぇ、あのおっさん! 昨日もまた来てたでしょ!? ヤバいって、絶対アンタ狙われてるよ……!」  裏で作業をしていると、ギャルの友達が声を掛けてくる。 「え?」 「前にも言ったじゃん! アンタが居ない時は、絶対店に来ないおっさん! シフト把握してるって、ストーカーでしょ!?」  派手な見た目と裏腹に、仕事も丁寧で、よく気遣ってくれる。  そんな純粋に優しい彼女へ向かって、俺は首を傾げる。 「うん?」 「だーからー! あんな一回り以上離れたおっさんに付きまとわれてるの、ヤバいって! 店長に相談しよう!」 「うーん……お得意さんって事だろうし、仕事の都合で同じ曜日に来るだけかもしれないぞ」 「のんびりし過ぎ! 寂しいけど、最悪バイト辞める事も考えなきゃかなぁ……」  心配してくれる彼女に、笑って返す。 「辞めないよ。ここのバイト、俺好きだし」 「う〜……だったらやっぱ、店長に相談しよ!」 「平気だって。本当に何も無いし。何か問題が起きたら、相談するよ」 「だーからー! それじゃ遅いって〜!」  再び笑って返しながら、時計を確認する。 ──そろそろ仕事が終わって、ここへ寄ってくれる時間。  目の前の作業に区切りを付けて、表へ戻ろうと向きを変える。 「あの人なら大丈夫だよ。本好きなら、良い人だって」 「いやいやいや」 ──あ、今日はもう少し遅いかもしれない。確か会議の予定がパソコンに入っていた。  歩いている途中、こっそりとスマホを触って あの人のSNSが更新されていないか確認する。 「向こうに戻るの? 本当に気を付けなよ」 「ありがとう」 ──あの人がやっと声を掛けてくれた。  本好きだから、職場の近くの本屋なら接触するチャンスがあるかもしれない……そう考えたのは正解だった。 ──昔、俺が落とした合格祈願のお守りを、あの人は雨の中、わざわざ届けてくれた。  俺の一目惚れ。初恋。  見えたのは、持っていた封筒に書かれた職場の名前だけ。  でも恥ずかしくて、とても自分からは何も出来なくて……。 ──だから、今が凄く嬉しい。  人は恋をすると周りが見えなくなって、何でもすると書かれた本を以前に読んだ。  確かに、何をしてでも相手の事を知りたくなる。  もっと自分の事を知って、存在を認識して欲しいと願ってしまう。  特に初めての経験だと、限度が分からない。 ──でもきっと、皆が通る道。  これがハッピーエンドに繋がれば良いなと、切に思う。 「いらっしゃいませー」  あの人が入ってくる姿を視界の端で捉えつつ、俺は本棚への補充を続けた。

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