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十四
水鷹が目を細めて「藤高はキスマーク嫌なんだっけ?」と言い出したので「べつに」と返した。
そうなるとは思ったがこれ見よがしに首筋につけ出した。
こういう適当な考えで相手の神経を逆なでようとするから振られるんだと言ってやりたいが俺は悪い気はしない。
気持ちは落ち着かないものの下半身はピクリともしない。
水鷹が溜まりに溜まって発情しているだけかと思ったがどうもこれも俺のためらしい。
セックスをしたいというよりも医療行為だ。
俺が勃つかどうかを水鷹はある意味、冷静に見ている。
乳首を舐めながら俺を見る水鷹はいつもと違う顔つきだ。
いつもはランナーズハイとかスポーツで追い風に乗って得点を決めているときみたいな顔をつきで楽しそうにセックスをしている。
人のことを考えない自分のペースで腰を動かしていたらそれは確かに楽しいだろう。
今はそういう顔つきじゃない。わけもわからず快楽に飲み込まれたりしていない。
挿入していないからかもしれないが胸の周辺にキスマークをつけて鎖骨を軽く噛む。
乳首を指の腹で転がされているのをぼんやりと確認していると名前を呼ばれた。
「ね、藤高……乳首、どう?」
「どうってなんだよ。おまえは自分の乳首いじったことあるか? 気持ちいいのか?」
「喧嘩腰やめて。めっちゃ怖いっすわ」
「水鷹がヘタだから何も感じないな」
俺の言葉に水鷹は「はわわ」とあほっぽいショックの受け方をする。
「前戯だけで女をイカせたことある? 男を射精させたことある? ねえだろ?」
「あわわっ」
「わーわー言ってんじゃねえよ。ヘタくそですみませんって顔してろよ」
どんな顔なのか口にしている俺も分からない。
すこし悩んだ水鷹は顔を両手で隠して「あわせる顔がありません」と言った。
面白かったので許すことにする。
「百戦錬磨な藤高の手腕が気になったりするわけですが?」
「勃たない俺に掘ってほしいとか高度なギャグだな」
「言ってない! ぜんぜん、そんなこと言ってない!!」
「手コキ?」
「イエス、マイブラザー」
水鷹と兄弟になった覚えはない。穴兄弟だとかいう下ネタかもしれないがツッコミは入れない。
「じゃあ、まあ……ローションとれ」
この浴室にはシャンプーとコンディショナーと風呂で使えるローションがある。
入浴剤も各種いろいろと用意している。
水鷹に抱かれる親衛隊の面々は女性ホルモンが多そうな小奇麗で華奢な男ばかりだ。
かわいいものや綺麗なものを好むことも多い。
一応好き嫌いを聞いてからではあるが入浴剤を湯船には入れることにしている。
入浴剤はリラックス効果が高いからか泣きだしたり笑いだしたり俺を好きだと訴え続けてみたりと面白い反応を見ることもあるが、この時間のために生きていると言い出すような人間が出るほどわりと好評で中毒性がある。
「なんで、湯船をしめた」
ローションボトルをとった水鷹はなぜか浴槽に蓋をした。
「あひるに見られると恥ずかしいだろ」
「病気かよ」
自分で湯船に浮かべていたあひるのオモチャを気にするあたり水鷹はおかしい。
気になるなら最初から持ち込まなければいいのに面倒くさい女みたいに察しろとばかりに理解を求めてくる。
「ほら、見ててやるから自分で触ってみろ」
ローションを水鷹の性器に垂らして俺は湯船の縁に腰かける。
水鷹が蓋を閉めたので正確には蓋の上かもしれない。
「えぇぇぇ~、手コキは?」
空中で手を上下に動かす水鷹に湯船の蓋をあけてお湯を洗面器ですくう。
何も分かっていない水鷹の顔に洗面器のお湯をかけた。
「温度は高いのと低いの、どちらがいい? 次は熱湯か冷水をかける」
俺の言葉が脅しではないのがわかったのか水鷹は肩を落としながら自分で自分のモノを慰めにかかった。
水鷹のオナニーなんて初めて見るのでドキドキする。
「こんなの絶対、おかしいよ」
「気持ちよくねえーの?」
「勃起はしてますよ、勃ってますよ、興奮してますけどもねぇ」
「萎えてねえーんだったら気持ちが追いついてないってことだ」
「気持ちは追いつかないでしょ。公開オナニーして得られるのは後悔だけだってばさ」
くだらないことを言っている水鷹に手で作った水鉄砲で洗面器のお湯を飛ばす。
慣れているのでけっこう狙った場所に飛んでいく。
「うおぅ!」
「色気のねえ声」
「顔面に集中攻撃やめて! 目が開けてられないっ」
「目を閉じて自分が触ってると思わないでやってみろ」
「オレはもしかして藤高に調教されてんの? これが藤高のやりかたかっ!!」
照れているのか焦っているのか戸惑っているのか知らないが気持ちよくなりたいと水鷹の下半身は訴えているので俺はそれを叶えてやろうと思う。水鷹が抱く用の男も女もいないからこういう方法しかとれない。
「好みの相手に突っ込んでる妄想してろよ」
ローションを増量して水鷹の性器をしごく。
男の手は経験上あまり気持ちよくない。だから手でするならシチュエーションにこるべきだと俺は思っている。
ごつごつとした手で興奮するホモはともかく水鷹は繊細で綺麗で柔らかい手のほうがいいだろう。
俺の手は骨ばっていて目を閉じて触れても男のものだとわかる。
だから、こうしてワンクッション挟む。
親衛隊の人間にもいろいろな性的嗜好をもった人間がいるのでこの方法で方向性を見ている。
想像力がなかったりすると反応しないが頭の中がエロでいっぱいだと自分で性器をしごきながら喘ぎまくる。
頭をなでたり頬に触れるだけで恍惚として後ろの穴をヒクつかせたりする。
俺はそうやって水鷹のために抱かれる男を用意していたが自分がそうなるビジョンが思い浮かばない。
乳首は気持ちよくないし、性器だって無反応。
性的な興味は水鷹がいなければ最初から薄い。
子供なんか残すつもりもないから水鷹が責任を感じる必要だってあまりない。
「きもちいい?」
「藤高の声、えろい」
「てめぇ、引っこ抜かれてぇのか」
「同じになるかって? なんかエロいお誘いだな、それ」
水鷹の性器を強く握ると「うぐっ」と鈍い声。
「人がせっかく気持ちよくさせようとしてんのに、なに?」
「うー、うん。オレが悪かった」
萎えることなく水鷹の性器は元気にしている。
「あのさ、オレは藤高と気持ちよくなりたかったんだ」
「だから気持ちよくさせてやってるだろ」
「そうじゃなくてさぁ、オレはいろいろ頑張ってるだろ? ちゃんとご褒美が欲しいんだって」
何を言いたいのかわからない水鷹の回りくどさに首をかしげたくなりながら手を動かし続ける。
緩急つけて右手で竿をしごきつつ左手で玉を揉む。
「いや待って、気持ちいいよ! 気持ちいいんだよ!! 気持ちいいけどそうじゃねーんだってば!!」
地団太を踏んで自分の気持ちを吐き出す子供のような水鷹。
手を離して「なに」と言うと頭を抱えて天井を見上げた。
「あぁ、口でしてほしいって?」
「できるの!?」
「たぶんな。やったことないけど転入生と同じことはしねえーよ」
「藤高の初をいただきっ」
「発想がキモイ」
シャワーでローションを洗い流してやっていたら「楽しみだし嬉しいけど、そーじゃねぇ、そうじゃねえんすよ。藤高さま」と水鷹がつぶやく。
どういうことなのか頭の中で整理し終わってから俺に伝えてきてほしい。
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