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十九

 風呂場での全力ローションプレイに水鷹は大興奮だが俺の股間はベッドでの正常位もどきから引き続きピクリともしない。  以前はそれで良かった。不能であることで俺が性的興奮を覚えても水鷹には伝わらない。そのことで救われた気になっていた。  だが、何度となく水鷹と性行為を繰り返して慣れてきて思った。   「退屈だ」  楽しいのが水鷹ばかりの現状はなんだかおかしい。  どうにも水鷹がひとりで盛り上がっているだけな気がする。 「つまんない」 「え……えぇ!! エロいことしてる時に一番言ったらダメなことでないの、それ」 「なんか飽きた」 「どんだけクールガイなんだね、藤高さまったら!」 「おまえだけが楽しんでるじゃねえか、醒めるわ」 「ごめんなさい、すみません、謝りますから怒んないで……」    しょんぼりしている水鷹の頬にあひるのオモチャのくちばしをグリグリとえぐってやった。   「怒ってねーけど」 「さみしいの、藤高」  どうなんだろう。  疎外感を覚えている気はする。  ローションだらけで肌と肌をこすりあっても「だから、なに?」という感覚が消えない。  水鷹が喜んでいたり楽しそうなことに満足はするけれど壁を感じる。一体感が得られない。    誰かを混ぜた関係で満足はできなかった。不満ばかりが溜まっていた。そのくせ今は今でどこか納得がいっていない。    俺のために水鷹が動いていると思っても医療行為だと仮定するといやらしい気持ちが消える。  医者に触診を受けている気分で冷静そのもの。  目の前で乱されている水鷹がいるのに見えない透明な膜で隔てられている気がしてくる。  もちろんいつもこんな感覚になるわけじゃない。  ローションがどうでもよかったからか俺のテンションはだだ下がりだ。   「んー、んんー?? あ、もしかしてマットが浴室の床に擦れる音がイヤ?」 「それはある」 「気になると音が響いてるしね。わかった、やめとこう」    うんうんと頷いて水鷹はさっさとマットをお湯で流して丸めて壁の隅に立て掛ける。   「ローションの匂いがイヤとかある?」 「ゴムっぽいってかオイルっぽいっていうか」 「臭いと思っているわけだ」  水鷹は俺と自分にシャワーをかけてボディソープをかけてきた。  手で俺の身体にボディソープを伸ばしたかと思ったら抱きついてこすりつけていく。  立たされてボディソープを追加しながら水鷹の身体のいろんな部分が俺の身体と密着してこすれて離れる。  ローションとは全然違う密着感。  泡がどんどん上半身から足を伝って浴室の床に落ちていく。    気が付くと水鷹に壁に追い詰められてキスをしながら身体を二人して上下や左右に揺すっていた。  増えていく泡と馴染んだボディソープの匂いに安心と非日常を感じる。  腰や尻にも泡を塗りたくられるものの不快感や退屈さはない。   「藤高、気持ちいい?」 「……ボディソープがもったいない気がする」 「気持ちいいのが正義でしょ」 「消費が激しすぎる」 「環境汚染が気になるお年頃ですか」 「頻繁にするのは禁止」 「二度目以降の許可ありがとうございます!!」    万歳して大げさに喜ぶ水鷹はそのまま自分が作り上げた泡にすべって頭を打った。  次は座っている状態でやろう。  立ってやるのは危険だ。          シャワーで冷水を浴びせかけたので水鷹の身体の熱が引くかと思ったが逆だった。  頭を打って背中や尻が痛いと主張して仰向けのまま動かない。  そんな中で上向きで存在を主張する水鷹の性器。  仕方がないので俺の身体についていた泡を水鷹の性器にくっつける。  それだけでは刺激不足なので水鷹の上に乗って腰を振る。    さっき水鷹と擬似的な正常位をしていたとするならこれは騎乗位だろう。  挿入はしていないが性器をこすりあって高め合っている。  素股の経験がないわけじゃないが男同士でするのは初めてだ。   「これ、いいのか?」 「頭がめっちゃ痛いけどオレの息子は最高だと悦んでおります」 「水鷹の愚かなブツはちょっとの刺激で勃起する恥知らずだからな」 「いやいや、前から言ってる通りにオレの息子は藤高の楽しそうな顔に弱いんだってば」 「楽しそうにしてるか?」 「自覚ないの? めっちゃ笑ってるよ。性格悪い感じで」    ムカついたのでそれ以上は騎乗位もどきを続けるのはやめた。  瞳を潤ませるどころではなく本気で泣きながら水鷹が「ごめんなさい、謝るんでやめないでください」と懇願するが無視。   「手を使わずにそのままイケよ」 「藤高はときどきスゲーレベルの高いプレイを仕掛けてくるよね」 「できねえーの」  足でぐいっと押してやる。  痛いかもしれないので力をかけすぎないように注意する。   「おまえ、やっぱり足でやられんのが好きなのか」    俺が足を引こうとすると腰が動いて性器を押しつけてくる。  腰を上げて俺の足の裏にこすり付けてオナニーしようとする水鷹は快楽を求めすぎている。  荒い息が浴室で反響する。  寝転がっている水鷹、それを見下ろしている俺と距離があるはずなのに耳元で水鷹の息遣いが聞こえる気がして落ち着かない。   「これ、だけっ、だと……ぎり、で、まだイケないっ」    仕方がないのでしゃがみこんでまた騎乗位もどきをしてやろうとしたら水鷹が上半身を起こした。  勢いが良すぎて頭が当たるところだった。   「ぎゅうぎゅうしたい」 「つめたいっ」 「藤高があっためて」    俺が水をかけたせいで水鷹の髪の毛は濡れていて俺に抱きついてくる上半身も冷えていた。   「あー、もう風邪ひく」 「おまえのせいで二人で引くわ。いや、バカは風邪ひかねえな」 「じゃあさ、バカ決定戦しない?」  くだらないことを考えるのは水鷹の日常だ。  水鷹からその場の思い付きをとったら何も残らない。    俺にキスしたかと思うと「ちょっと待ってて」と風呂の外に駈け出した。  途中で悲鳴が聞こえたので転んだようだ。

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