1 / 3
第1話
「振られ男正宗 と慰めてあげる優しい庵 くんにかんぱーい」
何度この乾杯をしただろう。
高校からの親友である正宗が彼女と別れるたびに開催する慰め会。
高校の時は女っ気なかったくせに、大学でデビューしてしまったのかしょっちゅう彼女を作っては別れて俺に連絡をしてくるようになった。
そのたびせっせと慰め会をセッティングしてやるのは、なにも正宗のためだけじゃない。
俺が喜ばしいからだ。
親友とは名ばかりの俺の初恋相手。その失恋を単純に祝いたいだけ。
黒髪短髪、スポーツ万能な鍛えられて引き締まった体、馬鹿笑いする顔は子供っぽいのに普段は意外と冷静なところ、俺にはない男らしさは惹かれるところばかりだったけど、友達としか思っていない正宗相手には最初から諦めていた。だから今もまだ親友でいる。
「今回はまた早かったな。何週間もった?」
「……二週間」
正宗はビール、俺はハイボール。
適当なつまみと、正宗の好きなから揚げは絶対。そういえばこの前来た時に美味しいと言っていた茄子の揚げ浸しも追加しておこう。
そんなことを考えながらグラスを傾ける。
特に最近は別れるのが早くなっている気がする。
そのたび、そこら辺の女には正宗の魅力はわかんないかと悦に浸ったりもするけど、そこら辺の女の方が簡単に付き合えているかと思うとすぐに気持ちは沈む。
こんなにいい男他にいないんだから、付き合えたんだったら大事にすればいいのに。見る目がなさすぎる。相手の女も、そんな女を選ぶ正宗も。
「まあ、俺はいい彼氏じゃなかっただろうし仕方ないんだろうな」
「大丈夫。正宗のいいとこは俺がいっぱい知ってるから。すぐ次が見つかるって」
「お前ってほんといい奴だな」
嬉しそうに笑ってビールを呷る正宗は、振られ慣れたのかさほど傷ついている様子はない。それどころかいっそ身軽になった喜びの方が大きそうだ。
毎度のことだとあまり詳しく聞いていなかったけれど、よっぽど合わない彼女だったのだろうか。まあどうせ、次もまた懲りずに同じような相手を見つけるんだろう、こいつのことだから。
「庵は誰か相手いないのか? お前モテるだろ? 顔いいもんな」
その問いは寂しくもあり、褒められて嬉しい気持ちもあり。
「傍にこんなに別れまくる奴がいて、『じゃあ俺も付き合おう!』って気分になると思うか?」
「俺のせいか。ははは、そりゃ悪いな」
内心の複雑さは顔に出さずに肩をすくめれば、正宗は陽気に笑った。
そもそも俺の恋愛対象が男だということを知らない正宗からしたら、ずっと独り身に見える俺はおかしく思えるんだろう。
そもそもが女と付き合おうと思ったことがないとか、付き合ってはいないけど男のセフレはいるとか、そういうよろしくない話は正宗の耳に入れない。
あくまで俺は、ただの親友なのだから。
「はははは、そっか、俺のせいで一人なのかお前。そりゃあまずいな」
すきっ腹にアルコールを流し込んだからか、妙に上機嫌で俺じゃなかったら一発叩かれても仕方ないことを言い出した。
そうだよ、全部お前のせいだっての。
「そういう生意気なこと言う奴のから揚げにはレモンをかけてあげましょうねぇ」
「うおっ、それはやめろ!」
正宗が来て早々手元に確保したから揚げにたっぷり果汁をかけてささやかな憂さ晴らし。
ともだちにシェアしよう!