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第2話
それからしばし、益体もない話をつまみにアルコールを摂取し続けた結果、酔いが回った正宗が始めたのは、またも厄介な話だった。
「だからな? 絶対に初恋が実らないってことはないと思うんだよ俺は」
夢見る正宗の本日の話題は「初恋は実らないと言うけれど、必ずしもそうではないはず」だ。
なにをメルヘンな、とは思いつつも、振られた後だからこそ恋愛に夢を見たいのかもしれない。
それが気まずいのは俺の事情だ。
「いや、実らないでしょ。そういうもんなんだよ、初恋ってもんは」
幼いからとか経験不足とか、憧れだったとかそもそも叶わないものを初恋と言うのだとか。
色々と人それぞれの理由はあるだろうけど、少なくとも実体験を伴っているから言い切れる。
初恋は実らない。
実際、初恋が実っていないどころか、初恋相手に何度も失恋を重ねている人間がここにいるわけだし。
それを思うと、むしろみんな実っていてたまるかという気持ちにもなる。
八つ当たりだと言うことは十分承知の上だ。
それでも人の幸せを妬むぐらいしないとやっていられない回数サイレント失恋をしている俺が続けたい話じゃない。
だからなにやら熱弁している正宗を止めてその話を終わらせようとした。
けれど一度言い出した正宗は聞かず、頑固っぷりを存分に発揮してみせた。
「じゃあ周りに聞いてみよう。実際初恋が実ってるかどうか」
「いやいやいや酔いすぎだぞお前」
ここにいるみなさんに聞いてみようと立ち上がって手を広げて示したのは、当然知り合いでもない他の客たち。
張り上げた声が大きかったからか、周りの視線がちらちらとこちらに向けられている。そのそれぞれに頭を下げながら正宗をなんとかイスに座らせた。
なんという迷惑な酔っ払い方だ。
普段はここまで酔いはしないのに、よっぽど今回の別れに思うところがあるのか?
「話は聞いてやるから周りに迷惑はかけんなよ」
ボリュームを抑えろと手で示せば、根は素直な正宗は神妙な顔で頷いた。
ある程度愚痴でなんでも聞いたらタクシーに押し込んで帰らせよう。むしろ家に着いて部屋に入るのを確認するまで一緒に乗っていった方がいいかもしれない。
「すまない。じゃあ周りに聞く前に俺から試すことにする」
「へ?」
まるで今からなにかの試合を始めるかのように真剣な顔つきになった正宗は、姿勢を正してまっすぐ俺を見た。
「お前のことがずっと好きだった。今さらだけど付き合ってくれ」
言って、握れとばかりに俺へと伸ばされる手。
「……なんの冗談だよそれ」
「俺の初恋が実るのか実らないのか証明してるんだ。答えをくれ」
酔っ払い方のタチが悪い。
今までこんな酔い方をしたことなんてないくせに、今日この話をしている時に限って嫌な酔っ払いになりやがって。
言うに事欠いて「初恋」だなんて、俺にとっちゃ悪質すぎる冗談だ。
「初恋って……お前、今までどれだけ彼女がいたか俺が知らないとでも思ってんのか?」
「お前似の女の子でなんとかならないか試した結果だ」
別れるたびに飲み会を開いたんだ。正宗の恋愛遍歴なんて全部知っているぞと呆れて笑おうとしたけれど、上手くはいかなかった。
「俺似……? 試すって」
「いや、きっかけはお前に似てるからだけど、俺だってちゃんと好きになろうとした。だけど毎回、他の誰かを見てるとか、他に好きな人がいるくせにとかバレて振られた。女の子は鋭いな」
感心したように苦く笑う正宗の言葉が、うまく頭に入ってこない。
あまりに突然すぎる。これだったら俺の想いがバレていてドッキリをかけられているという方がどれだけ納得できるか。
正宗の初恋が俺だって? ははっ、それならあと何秒で目覚ましが鳴る?
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