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第4話

※NL回ですお気をつけください 「う、っ」  ローザは、息苦しさを感じ、ふっと目を覚ました。  夜は明けたばかりで、彼女の核とも言える大きな薔薇がさんさんと朝日光を浴びている。  爽やかな朝にもかかわらず、うまく息が吸えず、ローザはうう、と唸る。 (大丈夫、いつもの発作)  そう自分言い聞かせ、ゆっくりゆっくり呼吸をしようとするがうまくいかない。 (ままならないの)  ローザは胸を押さえて薔薇にもたれた。 (気をつけてたのに。情けないの)   そんな風に思っていたら、突然頭を撫でられた。 「ローザ、こちらへおいで」 「ま、お、さま」 「喋らなくていいから。おいで」  言葉に甘えて魔王の胸に抱かれると、王の魔力が心地よく、ローザの発作はゆっくりと治っていく。  ローザのスキル、“奪取”は他者の魔力を自らの花に蓄える。  吸い取る魔力の種類に制限のないアルジェントの“共喰い”とは違い、ローザの核に近づいた特定の魔物の魔力を吸い取り自分の養分にする能力だ。  特定、というのはこのスキルをもつ魔物によって違うのだが、ローザの場合は『人間』と『羽を持つ魔物』という限定的で特殊なものだ。  薔薇の美しさに惚れたある王が、彼女の株を王庭に植えたところ、人の多いそこでローザは一気に成長し、そしてあわや一国を滅ぼすほどの魔植物と成長した。これが、彼女が“傾国の薔薇“と呼ばれる所以だ。  聖火で燃やされそうになったところをシュバルツが救い、今は魔王城の庭にその本体がある。  しかし、魔王城にはほとんど人間は来ない。そして“傾国の薔薇”に近づく魔物も、それほど多くない。  奪取の能力以外にも魔力を取り込む術がないわけではないので、普段は気を付けているのだが、魔植物として最大級のサイズを誇るローザの本体は、奪取の能力に依存しているところがある。  そのため、ローザは時折魔力不足でこのような発作を起こすのだ。  そう言う時は、名付けの主である魔王の魔力(魔王の魔力は万物の魔力に通じるらしく、奪取の制限を受けない)を少し貰えばすぐに落ち着くとはいえ、我が王を食べているようであまり気分の良いものではなく、できれば遠慮したいのもローザの本心。  それでも、この身内に甘い魔王に「おいで」といわれると断ることもできないのだが。 「ありがと、魔王様」 「いいや。でも、今日はヴィオーラには近づかないほうがいいね」 「ん。…きょう、デート、だったのに」 「あちゃあ」  ヴィオーラは吸血種。上位種として人型を取ってはいるが、元々は血を吸う蝙蝠の魔物である。  ローザにとっては、ヴィオーラの魔力は捕食対象。弱っている時ほど愛しい人に会いたいものだが、弱っている時に会ってしまうと、奪取のスキルが暴走する可能性がある。  ローザとヴィオーラだと、単純な戦闘能力はヴィオーラの方が上だが、魔物としての格はローザが上。スキルの暴走如何では、ヴィオーラの魔力を食い尽くす可能性もあった。  核に直接近づかなくても、暴走したスキルは、彼を核まで引っ張ってくる可能性だってある。 「ヴィオーラには僕から伝えておこうか?」  シュバルツがそう声をかけた次の瞬間。 「私がどうかしたかな?」 「うわあ!?ヴィオーラ、ステイ!」  デート、と言っていたので恐らく迎えに来たであろうヴィオーラを瞬間的にローザの核の近くから吹き飛ばして、シュバルツはあっぶなー、と呟いた。  吹き飛ばされても特に体制は崩さず吹き飛ばされた先で優雅に立ったヴィオーラは、ローザがシュバルツの胸に抱かれていることと、その反応を見て「ああ」と頷いた。 「発作かな、ローザ」 「うん…、ごめん…」  せっかくのデートの約束をしていたのに、とローザが俯くと、ヴィオーラは切なげに、まるで舞台役者のような大袈裟な振りをつけて言った。 「ああ、落ち込まないで、愛しの君。憂う君も美しいけれど、やっぱり君には笑顔が似合う」 「…、人のこと言えないけどさあ、ヴィオーラってどストレートだよねぇ」  多少離れていてもよく通るヴィオーラの声に、ローザは両手で頬を押さえて赤くなっている。  この2人、いつから思いを通じ合わせたのかは知らないが、シュバルツが気づいた時にはこんな感じの関係だった。  ローザから見ると捕食するものとされるものという関係でもあり、吸血種であるヴィオーラからみるとローザは栄養となりえない存在でもある。  何がどうしてこうなった、という感じではあるのだが、大事な名付け子たちが仲良しなのはシュバルツ的には喜びはあっても不快感はない。  少し、羨ましくはあるのだが。 「ローザ、きっと明日には落ち着くだろう。だから私は明日また君を誘いにきたいのだけれど、どうだろうか?」  ヴィオーラの言葉に、ローザは小さくこくん、と頷いた。  その仕草に嬉しそうに微笑んだ後、「我が君、愛しの君を頼みます」といってヴィオーラはその場から去った。こう言う引き際も見事だ。  ローザはシュバルツにもう少しだけ体を寄せた。 「魔王様…」 「うん、いいよー。明日デートできるように、もう少し、僕の魔力食べときなさい。これ、命令ね」 「…ありがと、魔王様。だいすき」

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