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第1話
これは俺の心友の初恋の話しだ。
いい年したおっさんの初恋話しが苦手な腐女子の皆さんは回れ右をオススメする。
俺の心友の名前は柚原 了誓 だ。
千里と同じ養護施設で育ち、高卒後、朝から晩まで休む間もなく働き、唯一の肉親である茜音 を育て上げ、大学にまで進学させた。
その日暮らしの苦しい生活だったが、茜音にだけはひもじい思いをさせたくなかったんだろう。欲しい服や靴があれば、値段を気にせずに買ってやった。自分は同じ服を洗濯し穴が空くまで着続けた。恋とは無縁の生活を送っていた。
カタギの柚原と、ヤクザの俺。
立場も、住む世界も全く違う俺たちの出会いは偶然だった。
本部の会合がありオヤジのカバン持ちとして上京した俺は、ティッシュ配りのアルバイトをしていた柚原とすれ違った。
そんときヤツから同じ匂いがした。
言っておくがオヤジ臭じゃねぇぞ。当時、俺も柚原もまだ二十代後半だった。
俺もガキのころ両親が離婚し、母方の祖父母に引き取られたが、その祖父母が十歳のときに相次いで亡くなり、厄介者として疎まれていた俺は、弟と親戚宅をたらい回しにされた。
腹一杯食わせてもらえず、反抗的だと一方的に難癖をつけられては、殴る蹴るは当たり前。日常茶飯事だった。
新聞配達で稼いだ僅かな小遣いも全部取り上げれた。いつか殺される。俺は、弟を連れて家を飛び出した。
あてもなくさまよっていた俺たち兄弟に声を掛けてくれたのは、たまたま散歩中だった紫さんだった。
事情を説明しなんでもするから弟と一緒にここに置いてくれと土下座して度会さんに頼み込んだ。
俺のほうから柚原に声を掛けた。
似たような境遇で育った俺たちは、年も近いということもあり、すぐに意気投合した。
福島と東京。離れてはいたがまめに連絡を取り合い、上京したときは必ず会っていた。
そんな矢先、茜音が事件に巻き込まれた。
茜音は幼馴染みの七海と3日前に結婚したばかりだった。
柚原は茜音を誘拐し集団でレイプし殺した真沙哉と大上に復讐するために、東京での生活を切り上げ福島にIターンし、度会さんに頭を下げ盃を交わし、ヤクザになった。
柚原は茜音が死んだとき一緒に死んだ。
喜怒哀楽一切の感情を捨て、冷酷無比、冷徹な殺し屋になった。
自ら修羅の道を選んだのだ。
それから五年後ーー。
度会さんがクーデターを起こし新しく菱沼組の組長に就任した。
先代の浪費のせいで台所が火の車だった菱沼組を立て直すため腐心してくれたのがなにを隠そう卯月さんだった。
そう俺らのオヤジだ。
「なにやってんだおめぇさんは⁉」
「しーー気付かれる」
ヤツは物陰に隠れ、じぃーーっと誰かを見ていた。
卯月さん?
いや、違う。
柚原が見ていたのは、卯月さんの右隣にいる男だ。物腰が柔らかく綺麗な顔立ちをしていた。同じ男だとは思えないくらいなかなかの別嬪さんだった。
「彼を見るたび心臓がなぜかドキドキして、今にも破裂しそうになるんだ。それに、彼が気になって仕方がない。頭から離れないんだ。30歳にもなってこんな気持ち、はじめてなんだ。俺どうしたらいい?ついに頭がおかしくなったのか?」
決して感情を露にしない冷静沈着な柚原が珍しく動揺していた。
「恋だよ」
「恋?」
「そうだ。おめさんは、彼に恋をしてるんだ」
「俺、恋なんて一度もしたことがない。茜音を育ててその日生きるのが精一杯で、誰かを好きになったことなんて、今の今まで一度も……」
「大切なひとを目の前で失ったんだ。分かるよ。もう二度と大切なひとを失いたくない。同じ悲しい思いをしたくない。おめさんのその気持ちが。だから、ひとを好きになるのをずっと遠ざけてきたんだろう」
柚原はしばらく考え込んでいた。
「俺、彼を嫁さんにする」
「は?」
予想もしていなかったまさかの一言に唖然となった。
「だめ、だめ」
「なんで?同じ男だからか?」
「そうじゃない」
「いいんだ?」
「ひとがひとを好きになるのに、男も女も関係ねぇ」
「さすが、心の友」
「でも、彼だけは止めとけ」
「なんで?」
「彼は……橘は、卯月さんの専属弁護士で、コレだ」
小指を立てた。
「へぇー、そうなんだ」
柚原はさほど驚かず、逆に目をキラキラと輝かせた。
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