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第2話

「暇か?暇だろう。ツラ貸せや」 ヤスらと組事務所で話し込んでいたら、柚原が顔を出した。 連れていかれたのはなかまち夢通りに店を構えるルクドという名前の宝石店だった。 「俺、口下手だし、ドキドキして目も合わせられなくて、ほとんど話し掛けることが出来なかった」 橘は卯月さんとともに昨日東京に戻った。 「だからといって指輪をいきなり送り付けるのもな。そっちのほうがびっくらこいでドン引きされっぺよ」 「7月7日は橘の誕生日だ。誕プレだと相手は思うよ。俺の気持ちなんか気付いてもらえなくてもいいんだ」 「あ、でも、サイズは?」 「まわりに人がいないことを確認してから、橘の前でわざと転んだ。彼はすぐに手を差し出してくれて助けてくれた。そのときどさくさに紛れ指先で触った感覚でだいたいこのくらいサイズだろうって検討はつけた。サイズが違ったら、何年かかるかわからないけど、もし、もしもだよ。両想いになれら、そのときに直せばいいし」 恋に無縁だった柚原。 ポジティブであっけらかんとしていた。まるっきし別人だ。 恋はひとを変えるものだとはじめて知った。 それから毎年、柚原は7月7日に届くように橘に1個何十万もする指輪を送り続けた。 健気というか、ただの馬鹿というか。アホというか。 恋は盲目とはよく言ったもんだ。 そして今年も、通算5個目となる指輪を柚原は準備した。4勝0敗。勝算はない。これで駄目だったらさすがに諦めるだろう。誰もがそう思っていたがーー。 「茜音がチャンスを引き寄せてくれたのかも知れないな」 「あぁ」 「まさか向こうから福島に移住してくるとはな。卯月さんに感謝だな」 「卯月さんもだけど、未知さんと子どもたちにもだ」 柚原の目ははじめて恋を知ったあの日みたいにきらきらと輝いていた。 度会さんが組長を辞し、卯月さんが菱沼組の組長になることが正式に決まった。 組長襲名式は偶然にも7月7日だ。 「茜音、お兄ちゃん初恋の彼にプロポーズしてくる。力を貸してくれ」 七海から託された茜音の喉仏が入ったペンダントを、緊張し震える手でそっと握り締めた。 「柚原さん、ガンバです!」 「こうなったら当たって砕けろです!」 「玉砕したら、俺ら朝までやけ酒に付き合いますんで」 「みんな有り難う。頑張ってくる」 若い衆から熱烈なエールを受け、柚原は緊張した面持ちで広間の戸を開けた。 「あなたという人は……もうしょうがないですね」 橘は戸惑いながらも柚原のプロポーズを受け入れてくれた。 茜音、見てっか⁉ おめさんのあんちゃんやったぞ。 5年も掛かったが初恋を実らせたぞ。 あんちゃんには勿体ないくらいめんげぇ嫁さんだぞ。 一度でいいからおめさんに嫁さんの顔を見せてやりたかったな。 雲ひとつない夏の空を見上げると涙で視界が霞んだ。 柚原に触発されたのか、俺もはじめてひとを好きになった 恥ずかしそうに俯きもじもじする姐さん。 あまりの可愛さに心臓がいまにも飛び出すんじゃないかと思った。 「僕は福島弁で話す貴方が嫌いじゃないです。真面目で実直な貴方らしいから。だから、無理して標準語で話さなくてもいいです」 そう言ってくれた姐さんに胸をぶち撃ち抜かれた。 「柚原がやっちゃくねぇって言うから、しょがねぇから俺が若頭になるしかなかったんだべ。姐さんの弾よけになっから、ヤス、お前に譲る」 「無理ですよ、俺」 ヤスにもまんまと逃げられてしまった。 「やっぱ、誰かいねえか。そりゃあそうだよな。責任重大だもんな」 縁側に腰を下ろし、空を見上げながらはぁーとため息をついていると、ひとりの男の名前が頭に浮かんできた。 彼なら適任だ。 俺は迷わずスマホを耳にあてた。

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