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第4話
「そういうのとは全然違うんだよ。愛斗への気持ちは。こんな風に恋焦がれる気持ちは初めてで、愛斗に会って初めて人に恋をするって感覚を知ったんだ。正真正銘の初恋」
僕の手を取り、まるで祈るように両手で握る恋くんは、囁くような声で告白してくれる。
「愛斗の前ではいつでもかっこいい男でいたいから、今までの俺を知ってる相手には会わせたくなかった。可愛い愛斗を誰にも取られたくなかったしね」
「恋くんはいつもかっこいいし、僕なんか誰も取らないよ」
「愛斗のことを知ったら誰でも欲しくなるよ。その気持ちが会うたび抑えきれなくなりそうで、いつか幻滅されそうで怖いんだ」
友達に会わせてくれなかった理由は僕が思っていたものと全く違うどころか正反対だった。てっきり僕が恥ずかしいからだと思っていたのに。
「本当はもっと触れたいし毎日一緒にいたいしキスしたいしそれ以上もしたいしその首筋もずっと噛みたいって思ってる」
「えっ……え?」
「本当はこれもつけるんじゃなくて外したいし、俺のもんだって噛んで跡つけたい」
さっきつけてくれたカラーに触れてなぞる指はいつもの優しい恋くんと違って、アルファの匂いがする。僕を、オメガとして見るその目は、今まで知らなかった恋くんの顔だ。
「そういう男なんだよ俺は。がっかりした?」
「え、嬉しい……」
困ったように弱々しく笑う恋くんに、ほっとして思わず本音が漏れてしまった。
だってずっと、この幸せな時間はいつか終わるものだと思っていたから。
「え?」
「あ、いや、あの恋くんがそんな風に思ってくれてたなんて思わなかったから」
「あんまり言ったら愛斗が引いちゃうと思って」
「引かないよ。恋くんの気持ちが聞けて、すごく、嬉しい」
恋くんが僕と距離を縮めたいと思ってくれることのどこに引く要素があるのか。
優しくて気を遣ってくれる恋くんだってもちろん好きだけど、恋人同士、もっと気の置けない関係になりたい欲は僕にだってある。
そんな気持ちを恋くんが隠していたってことにも驚いたけど、なにより。
「本当に、初恋だったんだ……」
「信じてなかった?」
確かにずっとそう言われていたけど、まさか本当だったとは。
窺うようにくるくる動くうさぎの耳に申し訳なさを感じつつも、正直に頷いた。
「実は、うん、ちょっと。でも、恋くんの初恋相手になれるのは嬉しいし、僕も初恋だからお揃いだね」
「君ってやつは本当……可愛すぎるな」
お揃いって、やっぱり恋人っぽいねと喜ぶ僕を再び抱きしめて、恋くんは僕の頭を撫でる。
それから。
「これは、予約」
ちゅっと可愛らしい音を立てて触れたのはカラーの少し上の首筋。くすぐったいのとは少し違う、そわそわする感触に身を引くと、恋くんは柔らかく微笑んでもう一度カラーに触れた。
「いつかの時までこれで俺から守っておいて」
僕だけに聞こえる声で囁くと、恋くんは長い耳を優雅に揺らして向かいの席に戻っていった。
恋くんの本音が聞けた嬉しさに舞い上がっていて帰るまで気づかなかったけど。
もしかして僕、すごい約束をしたりした……?
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