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第3話
「ね、一回抱きしめてもいい?」
「なんで許可取るの? わっ」
「んー愛斗ほんっと可愛い。大好き」
思った以上に勢いよくぎゅうっと抱きしめられ、零れるような甘い言葉を囁かれて顔が熱くなる。
恋くんはこんなにかっこいいのに、ぴんと立ったうさぎの耳がわかりやすく機嫌の良さを表していてとても可愛い。
まあ僕の方も癒されて耳がぺったりと後ろに倒れているだろうけど。
「れ、恋くん、ここ外だからあんまり……っ」
「あれ」
とはいえここは喫茶店で、周りには多くないとはいえお客さんがいる。
ただでさえ目立つ恋くんがぴんと耳を立ててたら、遠くからでも注目を集めてしまうに違いない。
だからそろそろ元の席に戻った方が、と言おうとしたタイミングで横を通りかかった人と目が合った。
というか、僕に抱きつく恋くんの後ろ姿と耳を見て声を上げられた。
「え、あ、え、お前……え、もしかしてそれ……は⁈ お前付き合ってんの⁉︎」
その動揺をわかりやすく態度と言葉で示す恋くんの知り合いらしき人。
不機嫌そうに振り返った恋くんと僕を交互に指差し、ひっくり返った声で驚きを表している。
その反応からいってお友達だったりするのだろうか。
「あ、あの」
恋くんが僕との関係を隠していたお友達なら、なにか誤魔化さないとまずいだろう。
とはいえ、お揃いのカラーをしてこんなところで抱き合っていたんだ。しかもトレードマークの耳をぴんと立てて。これで人違いを装ったり、なんでもない関係というのはちょっと難しい。
それになによりそれは僕に言われた、不釣り合いを意味する言葉だと思ったんだけど。
「お前が、恋人⁉︎ 恋とかすんの?! お前が?! マジで?!」
「うるさいな。愛斗が驚くだろ」
それがどうやら違うらしいと気づいたのは、その驚きが主に恋くんに向けられていたから。
なんだか大層驚かれていて、恋くんがとても低い声で答えている。いつも柔らかくて優しい声で喋る恋くんからはあまり聞いたことのない声質だ。
「え、だってお前がそんな真面目そうなオメガといちゃついてる上にお揃いとか……マジかよ」
「なにが悪い。……俺の大事な人なんだからあんまり見るな。さっさと帰れ」
棘を隠さない言葉をぽんぽん投げつけ、追い払うようにしてお友達らしき人を追い返してしまった。よっぽど僕といるところは見られたくなかったらしいけど……なんとなく思っていた感じとは違う。
「悪い。驚かせたな」
「ううん、大丈夫だけど……あの、恋くんに恋人がいるって、そんなに驚くことなの……?」
モテるのだからいつものことだろうし、僕みたいな相手が珍しいという意味なのかと思っていたけれど。あの言い方だと恋くんに恋人がいること自体が驚きの原因のようだった。
「……だから誰にも会わせたくなかったんだ」
恋くんは大きくため息をついて額に手を当て、それから小さく微笑んだ。
「言ったでしょ、君が初恋だって」
「でもあの、前にも付き合ってる人……」
「その辺はあんまり愛斗には聞かせたくないんだけど」
幾度も恋くんの隣に綺麗な人がいるのを見た。それは恋人ではなかったのだろうか。
「……まあ、そういう付き合いに恋愛感情は必要ないと言いますか、愛斗の思う『お付き合い』とはニュアンスが違うと言いますか」
恋くんにしては珍しいはっきりしない口ごもり方で、僕から目を逸らす。なぜか耳がぺったり寝てしまっている。
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