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第2話
「そうだ。これ貰って」
今日は朝から待ち合わせて買い物に行って、一緒にお昼を食べてから映画を見た。その後に感想を喋りがてら一息つこうと喫茶店にやってきた。
恋くんからそんなことを言われたのは席について注文が揃ったときのことだった。
「なに?」
プレゼント、と渡されたのはクラフト袋。シンプルな表面に押されたスタンプの店名は、さっき行ったセレクトショップのもの。
「さっき見た時に似合うと思ったから」
「あ……」
恋くんに促されて袋を開けて覗き込むと、そこに入っていたのは見覚えのあるものだった。
「いつの間に買ったの?」
入っていたのはオメガが自衛のためにつける首輪、カラー。
ただ普段僕がつけているような地味なものではなく、オシャレで明らかに高そうなものだ。作り自体はシンプルだけど、黒いレザー地は触り心地が良くて、喉元についたリングの先には小さな宝石が輝いている。どちらかというとチョーカーに近い。
「愛斗 が見てない時にこっそりとね。で、実はお揃い」
ほら、と恋くんがどこからか取り出したのは今プレゼントされたものと同じ形のカラー。もちろんアルファである恋くんには必要のないものだけど、このデザインならむしろ恋くんの方が似合いそう。
「……嬉しくない?」
「すごく嬉しいけど、こんなオシャレで高そうなのもらえないよ。恋くんならなんでも似合うと思うけど、僕には……」
「似合うと思って買ったんだからつけてよ。それとも俺とお揃いはイヤ?」
もらったプレゼントの値段のことを言うのは無粋だとは思うけれど、さっき見たものならやすやすと貰えるものではない。
だけど恋くんはそうやって僕を窺うように首を傾げ、うさぎの耳をしょげてみせる。そんな風に全身で悲しみを表現されたら、返すわけにはいかないじゃないか。
「ずるいよ、恋くん。そんなの、嫌なわけない」
「じゃあ喜んでもらってよ。愛斗とお揃いが良くて買ったんだから」
「……うん。じゃあ、ありがとう。もらう」
「良かった。あ、ちょっと待った。俺がつけたい」
もらったからには今この場でつけるべきだろう。
そう思って今つけているカラーを外すと、恋くんが僕の隣へと席を移ってきた。そして僕に後ろを向かせて新しいカラーのベルトを嵌めてくれる。
普段はカラーで隠れている首筋に恋くんの手と吐息が触れるのがくすぐったい。
「ふふ、耳がぱたぱたしてる。かわいい」
どうやらワクワクが犬耳の方に出てしまっていたらしく、恥ずかしさに両手で耳を隠す。もらえないとか言っといて、恋くんの選んでくれたカラーをつけられることには喜んでしまうなんて、なんて現金な。
「ちょっと待ってね。俺もつける」
すぐにつけ終わった後、僕が後ろを向いている間に、器用な恋くんは自分でカラーをつけているらしい。それに対してもぱたぱたと耳が動いてしまう。
こういうとき、いまいち制御の利かない犬耳がもどかしい。僕が隠そうとしている感情も、勝手に表に出してしまうんだから厄介極まりない。
「はい、こっち向いて」
肩を叩かれたのを合図に恋くんの方を向くと、そこには同じカラーをつけたかっこいい人が微笑んでいた。
「うん。やっぱり黒にして良かった。愛斗は肌が白いから黒が良く映える」
「恋くんはいつも通りかっこいい」
やっぱりというか案の定というか、本来なら必要のないアルファの恋くんの方がオシャレで似合っている。
それと同じものを僕もしているかと思うと少しだけ落ち着かない気もするけど、恋くんがいいと言ってくれてるからそれを信じよう。
「ありがとう恋くん。お揃い、ちょっと恥ずかしいけど嬉しい」
二人で同じものをつけても、僕らの場合は元が違いすぎて同じものだと見えないかもしれない。
それでもやっぱり蓮くんの選んでくれたお揃いは嬉しい。見せつける感じがしてちょっと恥ずかしいのも本音だけど。
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