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第4話

流星群の日が近づくにつれて、リュウは「忙しいから」と言って一緒に帰るのも、ウチに遊びに来る回数も減っていた。 まあ、あいつは部活もあるし、生徒会もあるし、人気者だし、しょうがないよなー、と思っていたのだが、その理由はごく普通の男子高校生にはよくあることのようだった。 昼休みに、廊下で女子生徒が話しているのが耳に入ってきた。 「ねぇねぇ、最近さリュウくん、生徒会のカオリさんと付き合ってるんだって!2人で天体観察とかしてるらしいよ」 「えー、そうなの? 残念、でも、カオリさんとならお似合いよねー、負けた……」 「いや、別にあんた、相手にされてないから!」 「あっ、そうか!ハハハ」 笑い声を聞きながら、オレは何だ、そういうことなんだ、と納得した。カオリさんというのは、こちらも美人の人気者、さっきの女子が言うようにお似合いカップルだ。 あいつ、それなら言ってくれればいいのにな。「彼女できたんだ」って。「ヨウスケに教えてもらった星の話し、彼女にもしてるんだ」って。 その日も部活帰りにリュウは現れなかったので、オレは1人で帰った。いつものように、飯を食べて、風呂に入って、自分の部屋のベランダから星を見ていた。 あの女子たちの会話がやけに耳に残っている「相手にされてないから!」。なぜか、その言葉だけが頭の中でリフレインする。頭上にはリュウと見たM31が輝いていた。 オレはリュウに流星群を見に行くのを断った。でも、リュウは「絶対ダメだ。絶対一緒に行く」と言って聞かなかった。 オレは自分でもなぜ、断ろうとしているのかがわからなくて、でも、リュウの顔は見たくなくて。こんな、わけのわからない気持ちは、もう嫌だった。 だから、今回の流星群でリュウと星を見るのは最後にしようと思って一緒に行くことにした。 リュウはオレのセッテイングしたチェアのすぐ隣に、ピッタリとくっつけるように自分のチェアを置いていた。 「何でこんなに、くっつけんだよ」 オレが不機嫌に聞く。 「いいだろ、すげー寒いから、くっついたほうが暖かいじゃん」 「まあ、いいけど……」 「でも、なんで、今日来ないって言ったり、不機嫌なんだよ? 『別に』は禁止」 リュウはそう言いながら、オレの横に本当に身体を寄せて座る。リュウの体温が伝わってくる感じがした。 「……お前に、彼女ができたって言うから、ここには彼女と来ればいいかなって」 「はぁ? お前何言ってんの?」 「だって、カオリさんと……」 「ああ、噂になってるみたいだけど、カオリは幼馴染だよ。最近、あいつに好きなやつができたって言うから、放課後相談に乗ってやってて、それを誰か見たんだろ」 「で、でも、お前モテるんだから、彼女つくれよ」 オレ、何言ってんだ。せっかく誤解だって、リュウが言ってるのに! 「俺は、今まで誰かを好きになったことなんて、ないんだよ。自分でも何でかわからないけど」 エッ、オレと同じ? 「じ、じゃあ、これから誰か好きなればいいだろ!」 またまたまた、オレ、何わけわかんないこと言ってるんだよ! リュウがしばらく黙る。 すると、周囲がどよめき始めた。 上空を見ると、天頂付近から明るい光の筋がいくつも流れている。 通常の流星群は数分に2、3個くらいのことが多いが、今回は違っていた。 数秒ごとに、天空の至るところで星が流れる。冬の澄んだ大気に音もなく白い光の筋が次々と現れる。 「きれいだ」 オレは思わず声に出して、リュウを見た。 すると、リュウもオレを見た。リュウの瞳には、なぜか涙が溢れていた。溢れた涙は頬を伝って、一筋の流れ星のように輝きながら零れ落ちた。 「何で……、泣いてるんだよ」 「この流星群を、お前と見れたから」 リュウは涙を拭って、笑顔になった。 「俺さ、本当はクラス替えしたときから、お前と話したくて。帰りの時間合わせたりしてた。それで、話してみたら、何か自分でもわからないけど、すごく一緒にいたくなって。こういう気持ち、初めてで、何かわかんないけど」 リュウの頭上には、本当にたくさんの光の筋が、深い闇を切り裂くように降り注いでいた。 「俺はヨウスケとこの先も一緒に星を見ていたい。また、来年もここに来ような!」 オレは何か言葉を発すると、泣いてしまいそうだったので、何度も頷いた。 リュウはオレの手袋をそっと外すと、自分の手袋も外して、オレの手をギュッと握った。 オレは、今まで自分でも理解できない感情が何だったのか、今、やっとわかった。これが恋ってやつだ! 初恋は、星降る夜にやってくる。

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