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第1話

彼を愛した。 牢獄へと繋がれるため、宮殿の地下牢へ引きずられている姿を窓から見てしまった瞬間から。 美しい人。 粗末な布をまとっただけだったから野に住む聖人なのだとすぐにわかったけれど。 聖者は荒野に住み、蜂蜜とイナゴだけで生きる。 粗末な布1つ纏ったままで やつれはしていても美しい。 髭がない。 聖者はカミソリを身体にあてることしないから髪は波打つように長いのに。 美しい身体は青年と少年の中間で。 まだ聖者が若いことを教えてくれた。 20を超えたかくらいだろう。 若く美しい聖者。 この国でウワサになってるあの人なのだとサロメは思った。 母親の新しい夫。 父王を殺して新しい王になり母と結婚した男。 父の仇で母の夫の義理の父。 そして父の弟。 王がもっとも憎むのがその聖者だった。 聖者は王を批難したから。 誰もが恐れる王を恐れずに。 聖者ゆえ、神を恐れて見逃していたが、王はとうとう堪忍袋の緒が切れたのだろう。 誰だって本当のことで批難してくる人間は憎い。 聖者は捕らえられ、牢獄につながれるのだ。 だけど、引きずられるその人は。 足をもつれさせても、乱暴に小突かれても。 静かでとても美しかった。 サロメは恋をした。 その瞬間に。 先王の一人息子。 正当な王位継承権を持つ自分を何故王が殺さないのかをサロメは分かっていた。 サロメは美しかった。 父親から王が奪ったその母親よりも美しい。 まだ17歳。 まだ少年の面影を持つ貌も身体も、匂い立つように美しく。 だから殺されなかった。 王はその母親を得てもなお、サロメを欲しがった。 さすがに大っぴらに息子まで慰みモノにするわけにはいかない。 高貴な血筋なのだ。 王はその血筋をほこる。 殺すのは簡単だが、無理強いして犯すことはできない。 だから口説いてくる。 機会があればいつでも。 母親の目の前ですらかまわずに。 でも、歪んだ心の母親は、嫉妬の目を息子にむけるのだ。 サロメは拒否し続けるしかない。 それもやんわりと。 あまり怒らせたなら殺されてしまうのも分かっていたから。 「何が欲しい?なんでもくれてやる」 王はなんども、甥であり、義理の息子であるサロメの手を握り、腰を撫でながら言った。 サロメは父親への想いを語り、喪に服していると答えるのがやっとだった。 撫で回された場所を何度もその後、浴室で洗い流したけれど。 そしてとうとうサロメは閉じ込められた。 王によって。 王の言いなりになるまで。 サロメには肉欲がわからなかった。 穢いとしか思わなかった。 その日まで。 その窓からその人をみるまで。

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