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第23話

血塗れの兵士が首を大事そうに抱えて現れた。 もう臣下の者たちの中には気を失っているものもいる。 悪徳と暴虐。 ここにいることをさえ罪。 この王家は呪いだ。 神の怒りに触れる。 王妃は真っ青に固まったままだ。 彼女も加担した王家の乗っ取りは、王家を終わりにするだろう暴虐へと変わった。 王は狂った。 それは国の内外に知れ渡る。 これは。 国の終わりだ。 サロメが駆ける。 愛しいその人へと。 裸のまま。 汚されたままの姿で。 待ってる間にも、王にまた犯されていたのだとわかる。 その行為にサロメ自らも喜んでいたことも、 傷ついて、そして憐れむような目をした兵士からその首を受けとる。 サロメは初恋に頬を紅潮させながら、聖者の首に頬ずりした。 まだ暖かい。 その目もまだ濡れている。 その目を覗き込む。 やっとその目はサロメを映した。 まだしたたる血が腕に伝わるのが、抱きしめられているようでサロメはうっとり目を閉じた。 そして。 その唇に唇を重ねた。 暖かい。 まだ暖かい。 舌を差し込む。 舌もまだ暖かく、濡れていた。 夢中でその舌を唇を味わう。 微笑みながら。 片手で頭を抱え込み、もう方ほうの手で自分の穴を慰める。 聖者の首すら穢す行為に、とうとう臣下は耐えられなかった。 それは。 王の命を絶対とし、王と王宮を守るはずの兵士達でさえ耐え難いものだった。 神の名の元で出来た国。 その根幹が揺らいでいた。 王家は。 神に背いた。 この王家は。 この国ではない。 王も気付く。 これは。 これは。 終わりだ。 良心ではなく、権力への判断が動いた。 これではダメだ。 でも、もう遅い。 それもわかってしまった。 サロメは幸せだった。 とても幸せだった。 破滅の音が聞こえている。 この人の首がそれをくれた。 サロメはたった一人で国を滅ぼした。 憎い仇たちと一緒に地獄へ行く。 「あなたの首に口付けしたよ・・・あなたを手に入れた」 愛しかった。 綺麗なままの聖者が。 こうしてもなお、汚せない聖者が。 サロメは飛ぶ鳥を窓から見た時の目で聖者をみつめた。 「サロメを殺せ!!」 王が叫んだ。 もう遅い。 サロメを殺したところで、聖者殺しや、王子を凌辱した罪からは逃れられない。 王家は終わる。 だが、王は叫んで。 サロメの首は飛んでいく。 サロメの首を飛ばしたのは、サロメを愛した兵士だった。 転がるサロメの首をみつめながら、兵士は聖者の首を抱いたままのサロメの身体を抱きしめた。 たった一人で王家を滅ぼした王子を。 争いがおこり、誰かが新しい王座を奪うだろう。 王家は終わる。 「オレのものだ」 兵士はそういうと、剣で自分とサロメを貫いた。 離れないように。 聖者の首は転がったが、兵士と首のないサロメの身体は固く貫かれて離れなかった。 「可哀想で・・・可愛い王子さま・・・」 兵士は囁いた。 首のないサロメに。 そして絶命した。 救いはいらなかった。 サロメを追って地獄へ行くだけ。 地獄に聖者はいないから。 サロメはもう、自分しか見れない。 兵士は微笑んでいた。 その日の内に王家は滅んだ。 兵士達は罪深い王を捨てたのだ。 王も王妃も殺された。 そして、聖者が予言した救い主の物語はまた別のお話。 終わり

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