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第3話 修学旅行最終日

五月十二日 晴れ。 修学旅行三日目。  本日最終日、オレの青春は昨日終わったので、特にどうという事はない。  朝食バイキングの時に、橋田が近寄ってきて、「ごめんね」と小さく言った。  元より橋田はオレの被害者だ。  まあ、友達は選べよ、ぐらい言いたかったが。  朝食後荷物をまとめ、オレ達団体さんはさっさと旅館を出発した。今日はさすがに体調が悪い、と一人で新幹線に乗るわけにはいかないので、大人しく団体行動した。  今日の観光の目玉は清水寺だ。  昨日、オレがその舞台から寝ぼけながら落下した事は、なんて皮肉だ。  みながバスに乗り込むと、旅館の従業員達がお見送りに並んで手を振ってくれる。どうせ、誰にでもやるんだろぉとオレはひねくれたが、そりゃ仕事なんだから当たり前だろうと思いなおし、手を振るのも恥ずかしかったので、頬杖をついていた腕を下ろし、お世話になりました、と小さく会釈した。    バスが発車すると、急に取り返しがつかないような衝動に駆られた。  もう、終わった事だ、今更何か伝えることなんて。 「何、あの人!」  バスの車内前方から、みなの声がさざめいてきた。  うるさい、オレはそれどころじゃなくって、ちょっとコンビニ行っていいですか? なんて、手を上げかけた時、あの一昨日からなぜか執拗に通いだしたコンビニが目に入った。 「またぁー来んねぇ~」  バイト男がコンビニの駐車場で大声で箒を振り回していた。純朴なクラスメイト達は、そのおそらくお世話にもなっていないバイト男にも素直に手を振った。「変なヒト~、でも割と好みかも」お節介女子が隣の席の橋田に話しかけ、「ふふ、いい人だね」橋田が笑った。  オレは男の趣味はあまり良くないが、女の趣味はやはり良かったようだ。    感極まって大きく手を振りかけて、悔しくなったオレはアッカンベーをした。  どうせ中学生男子の見分けなんて、ついてないんだろう? 「こらー、チキンも奢ってやったやろがー!」  失敗し処分対象のチキンは奢りとは言わない。  オレは十四歳全開の屈託のない笑顔を、愛すべきバイト男に送った。

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