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第1話

傾国金色(けいこくこんじき)の鳥と眞黒(まくろ)の王    美しき金の鳥よ。  手に落ちぬから欲するのか……。  尊さ故に欲するのか……。  並人ならばいらぬのか。  神でないこの身には知る術もない。  ただただ身を切るような心持ちだけがここにある。  + ++ + ++ +  黒の兵団が城内を占拠したのは一刻ほど前。  そこかしこに火の手が上がり、宮中の女や宦官たちの甲高い断末魔の悲鳴があちこちから聞こえてきた。  宮中の一番奥深くにあるその部屋は真っ黒な漆で塗られ頑丈な鍵が掛けられ数人の兵士で守られていた。ただその兵は既に皆心の臓を貫かれ倒れているが……。  鍵を打ちこわし、重い扉を開けると床も天井も全て真っ赤な壁の中に巨大な黄金の籠。その中に白い閨があった。部屋中に煙る禁制の香の強い香り。下卑た男の荒い息使い。ギシギシと軋む音。壊れた琴のような甲高い嬌声が聞こえた。 「娼街よりも醜く薄汚い。吐き気がするの」  既に生き血を吸いすぎてヌルヌルと滑る大刀を一振りして血飛沫を散らし、持ち替えた手で男の背中から斜めにざくりと振り下ろす。 「逆手、なまくらでも十分」  無様に半身を割かれた男の間から見える血に塗れた全裸の金の鳥はただ放心したように我を見上げている。 「己を守る兵が次々と息耐えていると言うのに金の鳥と睦んでおるとは……我が父君は、まこと気が触れておる……」  雪の如き肌。金糸の如き髪。落陽の如き瞳。この国のただ一人たりとて、こんな色の人間を見たことが無い。これが全ての者を惑わし、手にした者を天下人にするという傾国の金の鳥か。  なんという異形。なんという芳しさ。神々しさ。  今少し前まで、枯れ木のような老人に抱かれていたとは思えぬ。  無垢の幼子のような姿。  ぐらりと視界が歪んで意識が飛びそうになる。  恐ろしい……神などではない。これは妖魔だ!  我が母も兄も全ての血族を葬り去った罪深き存在。  ……まるで神である己のために全てが滅べと言わんが如き忌まわしき存在。  血が滴り落ちる大刀を金の鳥の頭上に翳す。血が頭から落ち顔に掛かり、白い肌を染めていく。 「そなたは今日から我の物だ」 「御心のお望みのままに」  血まみれの鳥は顔色一つ変えず頭を下げた。 「はは! なんという軽佻な金の鳥だ。もう主を変えるのか?」 「恐れながら申し上げます。わたくしは自ら死すことだけは禁じられております。黒の王よ。この身いかようにもご処分ください」  抑揚のない琴音のような美しい声。表情は平坦で水の如し。一太刀、一声でその細い首など空を舞うと言うのに、なぜ醜く泣き喚いて命乞いせぬ! 「ござかしい。殊勝なものいいに絆され我がそなたを生かすとでも思うておるのであろう! 女よりも美しい神のごとき姿で父や全ての者をまやかしさぞかし宮中での権力をほしいままにしてきたのであろうな!」  貧しい民や母君の骸の上を神のごとき姿で踏み躙ってきたのであろう!  いや、そうでなくてはならぬ!  金の鳥の細い手首を掴み床に落とした。 「この者を兵に与えよ」 「……御意」  後ろに控えた黒の王の最側近、亜藍(あらん)は恭しく頭を下げた。

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