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第2話

 占拠した王城は黒の兵団によって完全に掌握された。  死体は次々と城外へ搬送され生き残った者は地下牢へ幽閉。政権を立て直し新しい司法が動き次第、罪状を明らかにし処罰を与える手筈になっていた。  火矢によって炎上した建物もほぼ鎮火したが燻った黒い煙がまだいくつもの柱を作って空に向かって上がっている。  中庭には適当に集めた瓦礫を積み上げて作られた大きな焚き火の周りに円陣を組んだ兵士たちが勝利に酔いしれて酒宴を開き略奪された宮殿の贅沢な酒や食料、財宝が山になっている。  その宴の片隅に打ち捨てられた塊が落ちていた。  全身に傷がつき、皮膚は青黒い痣だらけで血が鬱血して膨れ上がり、透き通るような白い肌は見る影もない。男達の垢と精液まみれた体からは異臭が漂い陵辱された裂傷から血が流れ続けていた。金の髪も面白がられて切られたのだろう散切りにされほとんど無くなっている。 「王よ。もう慈悲をお与えになっては……」  恐れながらと跪き、この城の新しい王に亜藍が介錯を進言する。 「このような目におうても自ら死ねぬのか?」  死体のような金の鳥はピクリとも動かない。恨み事も、殺して欲しいとの懇願もなく黄金(こがね)のような瞳だけがまだ生きていることを告げ、ぼんやりと宙を見つめていた。まもなく死ぬとわかっているのだろう。 「……この者の姿を戻し元の金の籠に入れよ」 「王よ! それだけはなりませ……」  言葉尻まで終わらぬ内に黒の王の剣の柄が亜藍の溝内にあたり、吹き飛ばされた体が男達の酒宴の真ん中に落ちてきた。 「今なんともうした?」  立ち上がり、憤怒の形相で仁王立ちになった王の姿が篝火に赤く照らされる。  大きな体躯。黒く長い髪、浅黒い肌、鋭い眼差しも常闇の色。  全てに闇を纏うその姿は、この国で最も虐げられる筈の色だった。   「……も、申し訳……」  亜藍は地に伏し頭を擦りつけた…割れた額から血が流れている。  王の最側近であり、乳兄弟である亜藍が王の逆鱗に触れ、宙を舞った姿に凍りつき狂宴の音は止みパチパチとはぜる小さな篝火の音だけが鮮明に皆の耳に入る。 「疾く行え!」  腹の底にまで響くような怒号。  ほんの数年前、都に現れ圧倒的な力で荒くれ者達を掌握した黒の王は冥府より出でた鬼神のようなその姿で咆哮した。  彼の日……自らがどのように捩じ伏せられ彼の軍門に下ったかを思い起こし、その場にいる全ての者は生娘が如く震え、ただただ平伏するのみであった。    

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