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第3話
反旗からひと月。
黒の王と反乱群は忙殺されていた。
この国は探るほどに根深く腐敗しており貴族や僧侶はとうにいらぬもの、いやいぬ方がよいものでしかなかった。罪があれば然り、罪がなくとも財はほぼ没収。貴族は身分を廃し平民に、寺院は政治介入を一切遮断。清貧な学識者を探しだし宮中に呼びよせ健全な政治を再建を進めていた。
集めた財は貧しい民への施しや川の治水や国境の警備などに割り当てられ、民が糧を得る術を生みだし、一部の人間だけが不当に富まぬよう各所に部下を配置し見張らせている。貴族、商人などからは不満が上がり一部反乱も起きたが、絶対数の貧しい民は新政権に味方し叛逆の王はすぐに英雄となり新しい王として迎えられ、反乱群は義賊と称えられその後起きた反乱はほとんど制圧された。
亜藍と共に王が城に戻ったのは日を跨いだ夜半。
かつては毎夜朝まで饗宴が続いていた城は静まり返り王の信頼のおける者のみが暮らしていた。
「お食事はいかがなされますか?」
まだ起きていた部下が王の衣を受け取りながら尋ねてきた。
「いらぬ。朝でよい。もう休め」
「はは!」
頭を下げて部屋を後にする。
「お前も休め」
「……は」
亜藍も下がらせる。寝室にしているのはかつて父王が暮らしていた部屋。あの金の鳥のいる部屋の続き部屋になっていた。
湯浴みをして寝室に向かう。
反乱は成功したと言っていいだろう。
これで少しは母君や兄君に報いられたのだろうか……。
分からぬ……しかし我は全てはこの為に生きてきた。
母君の実家は罪人の一族として取り潰された。
その汚名をそそぐため、これから一門の再興し、もう我しか居ぬ一族ではあるがせめて大きな墓を作り、栄誉を墓標に刻み母の誇りを民に知らしめる。
悪婦として歴史に名を刻まれ葬り去られた母の名誉を回復せねばならぬ。
金の鳥はまだ眠っている。
あれから宮中に残っていた天医に治療させ籠に戻したがずっと眠り続けていた。甘水を口に含ませる程度の食事しか取れぬのに不思議なことに息たえることはなく日々回復しているという。
金の籠を覗くと顔の傷は癒えて雪のような肌が戻っていた。
体の傷もかなり回復しているとの報告を受けている。何より我が生まれた時、既に父に寵愛されていたはずなのにこの幼い姿。
「やはり妖魔か……」
なぜ捨て置かなかったのか……既に我も妖魔の毒に巻かれているのかも知れぬ……。
あそこまで貶めたのに、全く汚れたように見えぬ。金の籠の中で赤子のようにすやすやと眠り続ける白い顔は月明かりを浴びて淡く発光しているかのように見えた。
「我がこのような色であれば……」
母や兄が死すこともなかった。我の呪われた色が2人の命、祖父や祖母全ての母の一族の命をも奪ってしまったのだ。
「何を成したところで何も成さん……」
最大の目的は果たしてしまった。
父を葬り、国を正し、母の名誉を回復させた後。
それより先に我に成すべきことなどあるのだろうか……。
何を成しても 母にも兄にも会うことは決して叶わぬというのに……。
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