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第37話

 細き窓辺の木枠より淡く白い光が寝所に届き、鳥の声が長き夜が明けたことを告げる。  体の奥が痺れ、蕩とした熱が未だ収まらぬ……。  心も体も満たされ生かされているこの世はなんと愛おしく輝いて見ゆることか……。  まどろみの、その光の中、母上様の姿が浮かび我に優しく話しかけられた。   『……心より愛しいと思う方としか添い遂げてはなりませぬ。その方が尊でも賤でも病がおうても老いておっても構いませぬ。しかしただひとつ。そのお方を心より愛しいと想う自らの心だけは決して偽ってはなりませぬ』  そうである……。  あの折のもう一つの母上様の教え。  忘れておった……いや自ら失くしておった。  そのようなこともう我の生に起こるはずもないと思うておったゆえに……。 + ++ + ++ +  ぼうとしていると背中より暖かい腕が我を包んだ。 「すまぬ。無理をさせた」  振り返ると少し照れたような愛しきお顔が見ゆる。我は御身の物でありますのに何を謝ることがありましょうか……。   「お体にお変わりはありませぬか?」  そのお顔に触れ、瞳を覗き込む。 「触れておるか?」  我を見る優しき瞳。その光に濁りは一切ない……。 「我はまだそなたの愛しき者であるか?」 「もちろんでございます」  体より全ての力が抜ける心地がする。眩子様のお言葉を信じておったがやはりおそろしゅうであった。 「……ようございました……」  涙がこぼれる。眩子様の暖かい手が優しく我を包んでくださった。 「ほんに……ようございました」  偉大な王を落としむることなく、あの愛らしい王子様、王女様より優しき父上様を奪うことにならず真よかった。  御身に大事があらば、我の命くらいでは到底償いきれぬ……。 「そんなに泣くでない……」  安堵で涙が止まらぬ。童のように泣く我を眩子様は笑いながら優しく抱いて下さった。

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