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第38話

 二王子の誕生の日である春の良き日。  王宮の庭にて金の楼主の主催により元服の式が執り行われる。  早朝より家臣が王宮に大挙し、民草も開かれた門戸より集い、この国の世継ぎ二人の祝いの儀が始まるのを振る舞い酒と共に待ち侘びた。  その中央に立ち手を振るは兄王子である誉高。そして民よりの幼き赤子を抱き祝福するは弟王子の誉栄。双子であれば同日の元服、祝いとあいなった。  その賑わいの中いよいよと金の楼主が祝福の花を抱え持つ童達と共に、二王子の前に現れる。 「お二人ともご立派にご成長され、この良き日をお迎えになられたこと心よりお喜び申し上げます」  真白の衣装を纏った金の楼主は頭を低く下げ祝辞を述べると水晶の盆の上より小刀を捧げ持ち、それぞれに授けた。兄の刀には龍と紫尖晶、弟の刀には龍と蒼玉による美しい細工が施されていた。命刀となる元服の証である。 『誉高様! 誉栄様! 元服の儀、心よりお喜びお祝い申し上げます!』  家臣、民草も続き祝辞の声を上げた。  齢十三にしてすでに楼主よりも背の高い美丈夫の若武者二人は皆の祝福を受けると手を振り答え、その親しきを覚える柔和な仕草に更なる歓声が上がる。現王、耀讃眩子によく似たその姿は二方とも黒く長い髪をたたえ兄の誉高の瞳は深き紫陽。弟王子である誉栄は深き碧の瞳であった。  すでに父王に倣い、国政に関わり、よく城下にも下り民と近く信も厚い。神の宮では楼主の助けとなり子等に学問を教えていた。武術にも長け先の天覧試合では二人残りし頂上戦にて譲らぬ互角の戦いを見せよく民を沸かせた。  しかし双子であるため、全てにおいて優劣つかず、どちらが跡目となるのか、争いとなるのではと次代についての民の関心は高く古の双子の理通り、よもや国紛になるのではないかとの危惧する者も少なくなかった。 「王子等のため、皆よう集まった。この場にて我より申し伝えたきことがある」  現王である耀讃眩子が王座より声を上げると賑やかしき場が静まりかえる。やはりこれは世継ぎの告であるかと皆が注視し息を飲んだ。 「我は明日より王にあらず」  やはりのことかと、どよめきが広がる。しかし現王はまだまだ若くご健勝。よもや明日からとは……。 「父上様! いかなことでございますか?」  二王子は慌てて父のそばに寄り膝をついた。これは王子等も知らぬことだったようである。 「九つに分けしこの国。南、東四区を誉高。北、西の四区を誉栄、この中央の都を芳玉(ほうぎょく)の領ととし我の跡目は芳玉とする」   『な! なんと!!』  ざわめきはさらに大きくなる。二王子を差し置き末の王女である芳玉様を女帝と成すとは! 「女子(おなご)は戦を好まぬものじゃ。兄達を良く働かせ、狼藉を働きし時は容赦のう重き罰を下すであろう……」  賢きと誉の高い芳玉様ではあるが、まだ御歳五歳。しかも建国以来、女帝の御代は初めてのこととなる。 「しかしまだ幼き身である。元服し正式に王となすまでは我が後見となり実の務めは兄たちが成す」 「誉高、誉栄!」    呆然としていた二人は父王の大声(たいせい)に我に返り慌てて(こうべ)を伏せる。 「我は明日より楽隠居の身である。其方(そのほう)等の働きは毎夜の酒の肴ぞ。旨き物差し出してまいれ!」 『は!』  二王子は互いに顔を合わせるとさらに深く頭を下げた。  しばし、しんとした場は誰ぞが祝いの声を上げると一転、次代の王への祝福に包まれその宴は深夜まで続いた。    

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