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第42話 最終話

     + ++ + ++ +  「なんだよーーデートかと思ったら博物館かよ。しかもこの暑ちぃのに90分待ちでミイラ見るとかまじありえねーんだけどーー」  恋人の亜衣に珍しく美味しいもの食べに行こうと言われてノコノコついてきたらどうも卒論のための資料集めのついでだったらしい。全く興味がない展示を見るために炎天下のこの大行列に並ばされてるんだ。文句くらい言わせてほしい。 「今SNSで超バズってるの知らないの? すっごいロマンチックなのよーー同じ剣で刺されて重なったまま同じ棺に埋葬されてるなんて今世紀最大の歴史ミステリーって言われてるんだから!」  返事になってねーし。  史学部の亜衣は同じパンフレットを3冊も抱えて興奮気味だ。 「だって男同士なんだろ? 生贄って可能性もあるんじゃない?」 「バカねーー生贄が主の上に乗って埋葬なんてあるわけないでしょ? しかも棺も二人一緒に埋葬できるように特別に大きな作りになってんのよ! そんな棺が発見されたのも初めてのことなのよ!」  亜衣は重なり合うミイラを写し出したポスターを指さした。 「でね!でね! DNA鑑定したら上の金髪のミイラは絶対この地にいるはずのない民族なんだって! 遠くの国から奴隷として連れてこられたのではとか? 貿易などで国交があったのかとか? もしや宇宙人ではないかって説もあるのよ! ……でね、でね! 今一番有力な説は……」 「あーーーーもういいーー」  何ミイラの話で鼻息荒く瞳をキラキラさせてんだよ。 「何よーーこんな興味深いことないのにーー!」  ようやく中に入ると多くの人で囲まれた中央の展示ガラスの中に黄金と多くの宝石で装飾された大きな棺が置かれていた。 「やっと会えるーーあーー興奮するぅーーーー!!」  自分を置き去りにして群がる人を掻き分けミイラを覗き込む恋人に呆れながら、やれやれとガラスの中を覗く。  重なり合う向かい合う二体のミイラは一本の大きな剣で刺されていた。  なのにどちらの顔も穏やかに見える。これは確かに生贄ではなく心中なのだろう……。 「しかも見てよ! 上の人、少年なのかなーー女性みたいに華奢ですっごい綺麗な表情。髪も金髪で長いし。絶対恋人でしょ? 絶対絶対一緒に死ぬことを望んだのよーー」  だから興奮しすぎなんだよ。 「かもなーー」 「すっごい純愛じゃない?」 「俺が死んでも後を追うなよ!」 「追うわけないでしょ? すぐ次の相手見つけるわよ!」 「女はこえーーなーー王様も懲り懲りで、美少年にしたんだろうなーー」 「とにかく私はこの太古のロマンスを卒論のテーマに決めたんだから! 黙って付き合いなさいよ!」 「はい。はい」  もう一度ガラスの中を覗く。千年前かーーどんな時代だったのだろう……きっと自由恋愛なんか難しかった時代だっただろうに最後まで愛を貫いたんだなーー。   『なかなか平和な世になったようでよろしゅうございました』 「……え? 今なんか言った?」 「え? 何も言ってないわよーー」  撮影禁止だが絵にするのはいいらしい。横で懸命にスケッチしている亜衣は振り向きもせず面倒そうに返事をした。  もう一度、ガラスの中を覗き込むと今度は綺麗なミイラと目があったような気がした。 「え? 今笑った?」 「はあ? さっきから何言ってんの? わかった! 智志いい男だからミイラに惚れらちゃったんじゃない?」 「ちょ! 俺そういうのダメなんだよ! もういいだろ帰るぞ!」 「現代の男ちっちゃ! 太古のロマンも台無しだわーー先に帰っていいわよーー私は古代の王様とデートしてから帰る」 『揶揄がすぎおるぞ』 『すみませぬ。御身に少し似ておられたものでつい……』 (わーーーー頭ん中でなんか会話してる!)  慌てて会場から逃げ出した。  気のせい、気のせい! 今のは絶対空耳だ! 俺霊感とか全然ないし。  智志は慌てて近くの自販機で水を買ってがぶ飲みしながら心の中で空に吠えた。 (今の世の中すっっっごく平和ですーーーーだからどうぞご心配なく!!)         + ++ + ++ +    話題多く、多くの人々の関心を呼んだ。世紀の大発見だと言われた2体のミイラは後の研究やDNA鑑定などにより、上のミイラが遠く離れた別国の民であったこと、その国は長く神話だと思われていた幻の国であったが実在しており、黄金で彩られた高い文明国であったことなどが発掘跡などから判明した、なぜ異国の民が王と埋葬されることになったかの経緯など、さらなる研究、憶測を呼び多くの演劇や小説などでオマージュ創作が作られることになった。  この物語もその一つである。                              了。

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