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第41話
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「どうぞお命じくださいませ」
金華の黄金の瞳から大粒の涙が溢れ落ちておる。年老い病に倒れた我と違いその面は変わらず真白で艶やか、必死に我の手を握る柔らかき手は白魚の如きである。
「そなたはまだ若く美しく、そしてようやっと自由である。どこへでもゆくがよい」
あれより餓える民はなくなり学も上がり豊かな国となした。なにより我の在位より今まで一度も戦は起きておらぬ。芳玉の世となりし後も二王子はよく仕え内紛も無きである。
今日 まで穏やかに金の鳥と暮らした半生。
何の悔いもない。真、良き生であった。
「それはお約束が違います。わたくしはもう十分生きました。王の存在無くしてわたくしは決してないものでございます」
共に連れて行ってくださいませ。と初めて会った時の水面のような美しい面で金華は乞い願う。若き頃誓いしことであれど、今となれば、それはあまりにも惨きことである。
我に抱きつき震えるその愛しき背中を撫でた。
「我の恐ろしゅう本性を知っておりましょう? 眩子様が我より消えれば悲しみのあまり地を割り王の良き民を飲み込むやも知れませぬ」
美しき金の鳥。我を脅すとはなかなかの妖魔である。
「なにより我を残せば、この国は二つに割れまする」
金華は我の額にその白き額をつけた。
大地一面赤く燃える戦場 が見ゆる。ここは我亡き後の世であるか……。
そこに立ちおうは長き黒髪の二人の武将の影。
なるほど……あやつら金の鳥を奪いおうか……。
「……真、恐ろしき傾国の金の鳥であるの」
「さぞかしご心配なことでございましょう……」
言うと金華は我を覗き込み、魔物が如く妖艶に笑う。
許せ……とそなたとそなたの母御に祈る。
民草、子等の未来を憂いてのことではない、我はそなたを誰にも渡しとうない……。
「わかうた……共に参ろう……」
その白き手を取ると金華は美しく微笑み溢れた涙が我の頬に落ちた。
「亜藍。我を埋むる時、同じ棺に金の鳥を入れよ」
「……はは!」
老将となりしも我にずっと仕えし亜藍は我の最後の願いにも忠の心で従うた。
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