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第18話 幻覚
時間が止まったかのようだった。
100メートルほど先に、こちらを見ているジョシュアがいた。白いTシャツに黒いカジュアルなスーツを着て、なんだか病院に来るにはよろしくない色の取り合わせだな、なんてぼんやり思った。
顔の表情はよく見えなかったから、もっとよく見ようと意識したところで、急に我に返った。
隣にいた真鍋先生に何も言わずに、ベンチから立ち上がると、ジョシュアがいるのとは反対方向へ逃げた。
後ろを気にしている余裕はなかった。とにかく離れなければ。無我夢中で階段を走っておりた。
久しぶりに中庭に出たほどの運動不足ぶりだったから、肺が酸素を求めて悲鳴を上げた。足だってガクガクする。それでも足を止められなかった。
ジョシュアには会えない。どうやって今の自分を説明したらいいんだ。出来ないだろ。
何度かシミュレーションしたことはあった。何年か経って、もう冷静に過去のことになってテレビとかネットで見られたらとか……。でも直接会うのは想像してなかった。はぁはぁと息が切れる。
そのうちに1階まで着いてしまった。ぜぇぜぇと肩で息をして、壁に寄りかかる。後ろを振り返っても誰もいない。
良かった……。
そもそも幻覚を見たのかもしれない。
ジョシュアがここの病院に来るわけないのに。
真鍋先生には、後で幻覚のことも聞いてみないと。
息を整えながら、その場にうずくまる。
その時、ふわりと後ろから抱き締められて、ふっと森林のような爽やかな香りが漂ってきた。
「あ…この匂いは……」
そう思ったところで、脳がキャパシティを超えたのか、意識がブチンと途切れた。
────
目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。傍らに真鍋先生が俺の顔を覗き込んでいた。
「気がついたかい? 気分はどうかな?」
「……あ、……俺、倒れて……?」
「そうだよ。急に走っていなくなっちゃうし、びっくりしたよ〜」
のんびりした声で言うもんだから拍子抜けしてしまう。
「……先生、俺……幻覚見たみたいで……これからどうしたらいいのか……」
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