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第17話 青空

今日は久しぶりに青空が見える。 ここ最近、病室の窓からはどんよりとした曇り空しか見えなかったので、なんだか気分も明るくなるような感じだ。昨日は魘(うな)されずに、たっぷり寝られたし。眠る前に薬を飲んでおいてよかったな。 真鍋先生からは、特別な薬は出されていない。夜眠れないときに、眠りにつきやすくなる薬だけだ。 真鍋先生にこの鬱々とした気持ちとか、ジョシュアに申し訳ない気持ちとかを楽にしてくれるなら、薬を服用したいと言ってみたけれど、丸眼鏡をかけた優しい目をした医師は 「島本さんは、今はとっても辛いよね。うん、わかるよ。でも今は辛いかもしれないけれど、そういう時に効く薬は時間薬だから」 と言って、やんわりと薬の服用は止められたのだ。 時間薬は、時間がお薬になるってことで、つまり、時間が経って傷が癒えるのを待つしかないってことらしい。 それを最初に聞いたときは、「お医者さんならすぐに治してくれよ!」って突っかかっていったけれど、あれからしばらく経ってみると、確かに時間薬の効き目は本当だった。 最初の頃は、少しでもジョシュアを思い出すと、襲われた辛い感情もセットで蘇ってきて、すぐに傷口から血が噴き出すような感じだったけれど、今はだいぶ瘡蓋:(かさぶた)になって、少し傷を引っ掻いたくらいじゃどうってことなくなった。 それでも未だにジョシュアのことは過去にできないでいるけれど……。 こんなことになるんなら、もっと一緒にいられた時にちゃんと好きだとか言っておけばよかった……。 たくさん好きって言ってくれたのに。気がついたら俺も結構好きになってたんだな。最初はただただイケメンのヤバイ奴って感じだったのに。今は、こんな俺を好きになってくれてありがとうとか、出国前に手紙を殴り書きしただけで逃げ帰って申し訳ないとか、一瞬でも一緒にいられたんだから良かったじゃないかとか、そんな気持ちが日々、交互に浮かんできていた。 こうして人は恋の痛手から立ち直っていくのだろうか……。いつかジョシュアのことも思い出になるのかな。年取った時に若い頃に素敵な恋愛してたんだよなって思い出せるようになるのかな。 昼食後、まだポカポカ陽気が続いているので、さすがの俺も暖かい日差しに誘われるように中庭に散歩に出かけた。 ベンチに座ってぼ~ーっと空を流れる雲を見ていたら、「っくしゅん!」日差しは暖かいとは言え、まだ冬だから冷えたのか、くしゃみが出た。 「風邪引くよ」 見上げると、温かいお茶のペットボトルを差し出した真鍋先生が立っていた。 お礼を言って受け取り、 「すみません、でも久しぶりに外の空気が吸いたくなって……」 と言い訳すると、にっこり笑って 「それは良いことだね。島本さんも日光を浴びて光合成しなくちゃ」という。 「草木じゃないんだから光合成しても背は伸びないでしょう」 少しむくれて答えると、顔を見合わせて笑った。 あぁ久しぶりに笑ったな。顔の筋肉がびっくりしてるけど、自然に笑えるようになったんだなと思った。 その時、久しぶりに肌が粟立つような感覚がした。なんだか良く知っているような、懐かしいような……。何だっけ……? その後すぐに、ゾワゾワっと素肌を撫でられているような感じになって、本能が反応する。 顔を上げて目を向けた先には……… 俺が、世界で一番会いたくて、世界で一番会いたくないαが立っていた。

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