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第16話 霧中
※冒頭から不穏な表現が続きます。
トラウマなどが苦手な方は、ご自衛下さい。ブラウザバックをおすすめいたします。
──パチュン、パチュン
部屋には恥ずかしい水音がこだまする。
「……っん………ぁあっ!……だっ……だめ……ぁあ……ぅっ」
後ろからきつく腰骨を掴まれ、身体の奥深くを抉るように挿入が繰り返される。ジョシュアの剛直が、ごりごりとナカを行き来するのは、まるで自分の形を刻み込まれているようで、不思議な陶酔を覚える。
上半身を支えていられずに、くたりとベッドに倒れそうになるのを許さないと、ぐいと腕を引かれる。弓なりにしなった身体は不安定で、ジョシュアとつながっている一点に支えられ、快感も集約されていくかのように敏感になる。
「ぁ~~っ!……い゛……っく……あっ……あぁっ……!」
ゾクゾクっと快感が迫り上がってくる。あと少しで精を吐き出せるという所で、急に部屋が暗転した。
さっきまで、この身体を貫いていたのはジョシュアだったはずなのに、今は見知らぬ男に代わっていた。
急に恐怖が迫り上がってくる。
どうしよう。怖い、怖い。
「……ひっ!……やめ……やめて……くれっ!」
喉が引き攣ったように言葉がうまく出てこない。
「たっ……た、たすけて……っ!!」
────自分の悲鳴で目を覚ました。
ガバッと上半身を起こすとそこは、静かな部屋の中で、自分以外には誰もいなかった。
頭では夢だと分かっているはずなのに、まだ恐怖に包まれていて、胸の鼓動がドクンドクンと響く。そして頬を伝う涙の冷たさに驚く。
「……はぁっ、はぁっ…」
ベッドの上で膝を抱える。
「……う゛っ……ごめん……ごめん。ジョシュア、ごめん……会いたくなってごめん……」
俺はしばらく、うずくまったまま、涙を流し、震えていた。
だんだんと空が白み始め、カーテンからぼんやりと射し込む光に心の底から安堵する。身体をベッドに横たえると、目をつむった。
コンコンとドアをノックする音が聞こえて、寝ぼけたまま「どうぞ」と応える。
「おはよう、島本さん。調子はどうかな?」
「真鍋先生…おはようございます。……また、あの夢を見ちゃって………」
「……そうか。それはしんどかったね。ちょっと顔色も良くないね。血圧を測ってもいいかな」
俺は素直に掛け布団から腕を差し出した。そう、俺はΩと診断してくれたあの病院に入院している。
あんなことがあって逃げるようにデリウィグから帰国したのは年末だった。その後、自宅でしばらく過ごしていたが、さっきみたいな悪夢にうなされて、夜眠ることが難しくなってしまったのだ。
両親にも心配され、真鍋先生の診察を受けたところ、酷い顔色をしていたのか、先生に一目見るなり「入院しよう!」と言われたのだった。
真鍋先生だけではなく、Ωのトラウマに詳しい心理カウンセラーの人にも、自分の身に起きたことをぽつぽつ話すことができ、なんとなく心が浮上しつつあるように感じていたのだけれど……。たまに、またあの夢を見ては、恐怖に揺り戻されるのだった。
そんな状態なので、高校は休んでいるし、携帯もテレビもネットも見ないようにしている。だからジョシュアがローズと結婚したのか、ゴルドー家を継いだのか、分からなかった。
自分には、もうジョシュアを心配したり、恋い焦がれたりする権利はないはずなのに、ふとした時に、優しく身体に回される腕や囁く声が蘇ってきて、そのたびに胸が締め付けられるのだった。
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