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第15話 暗闇

おかしい。 この家でいつも感じていた康の気配がしない。クリスマスだからどこかに出かけたのか…? 康と仲が良いリサを探したが、いないと言われた。2人で買い物に行ったのか?なんだか嫌な予感がする…。 リサが帰ってきたら、部屋に来るようにほかの人に伝えておく。最近、この家のことにかかりっきりで、ほとんど康と過ごせていなかった。クリスマスくらいはゆっくりできると思ったんだが。 まだ、少し重い頭を抱えてベッドに戻る。横になると、浮かぶのはやっぱり運命の番、康のことだ。 この家のままでは、康はいつまでたっても使用人扱いだ。本人は気にしていなくても、周りはそう見ない。亡くなった母との約束もある。俺はこの家でやるべきことをやらなければ。そして、ゆっくり目を閉じた。 すっかり夜もふけたころ、部屋をノックする音と「リサです」という声がドア越しに聞こえてきた。 入るように促すと、怒ったような硬い表情をしたリサが部屋に入ってきた。 「康は?康はどこにいるんだ?」 「……康はもういません。帰りました」 驚いて、ベッドから身を起こす。 「…は?そんなこと聞いていない!どうして?」 扉近くに立っていたリサに近づいていき、そのまま見下ろす。俺の威圧にビクッと身体を震わせたが、リサは負けじと厳しい眼差しを俺に向けた。 「これ…。あなたにって」 そして白い封筒に入った手紙を俺に渡すと、そのまま挨拶もなく、部屋を出ていってしまった。 呆然とその後ろ姿を眺めていたが、ハッと我に返り、手紙の封を切る。 「ジョシュアへ メリークリスマス 本当はきちんと会って伝えたかったけれど、ごめん。 俺は日本に帰ります。 黙って行くのは、悪いと思ったけれど、もうジョシュアに会うこともないと思うから、許してくれなくてもいいよ。 最近、ジョシュアと全然話せていなかったね。俺がデリウィグに来たのは、俺がついてくることで、少しでもジョシュアの助けになればって思ったんだけど、ジョシュアは俺がいなくてもきちんとやっているんだなと思ったよ。 もちろんジョシュアは、それができるすごい奴なんだとは分かっていたけれど。 一人できちんと立ってるジョシュアを見ていたら、俺もちゃんと将来のことを考えたいと思ったんだ。ここでリサやサイモンさん、料理人の人たちと一緒にいて、俺は料理の勉強がしてみたいって気がついたんだ。 そういうことも、本当は沢山話したかったけれど、もう遅いみたい。 やっぱり俺は、ジョシュアの運命の番では、なかったみたいだ。それに気がつけただけでも、この国に来た甲斐があったのかな。 ジョシュアは、きちんとデリウィグでやりたいことをやってくれ。俺は俺でやりたいことをやるから。 もう一緒にはいられないから、お別れだ。今まで沢山、楽しい時間をありがとう。もう会えないから、連絡もしないでほしい。 じゃあ元気で、さようなら    島本康」 読みながら、なぜ?なぜ?という言葉が、頭の中をぐるぐると回る。 一人でやれる? そんなわけない。 康がいるという安心感で、充分に力が出せているというだけだ。番から離されることは、まるで自分の半身をもがれたような痛みと苦しみだ。 康がいなくなったという事実は、俺を暗闇へと突き落とした。

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