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第14話 聖夜
もうこのまま目覚めなくてもいいと思っていたけれど、残念ながらその願いは叶えられなかったようだ。
痛む身体に鞭打って、なんとか起き上がるとベッドにはほかに誰の気配もなかった。
まだ夜明け前なのか、外は真っ暗だ。今のうちに逃げ出さなくては。シーツを身体に巻き付けて、ヨロヨロと扉に向かう。歩き出して初めて、身体が震えていることに気がついた。
精一杯、歯を食いしばって歩き、リサの部屋をノックする。何度も何度も。
ようやくドアが開いて、寝起きの不機嫌そうな顔をしてあらわれたリサが、俺の顔を見るとすぐに、俺を部屋に引っ張り入れた。
「……どうした?」
「……ごめ、今は……。リサ、アフターピルある?…ほしいんだ…」
目を見開いて、おおよそ何が起こったのか分かったのだろう。ベッドまで連れて行かれ、端に腰掛けさせられた。
洗面所から薬と水を持ってきて、渡してくれる。手が震えて錠剤をうまくシートから取り出せない。見るに見かねて、リサが一錠取り出して手の平に載せてくれた。それを一気に水で流し込む。
水とともに錠剤が喉を通り過ぎていったのを感じて、ようやく深いため息をついた。
「……ね、康。今はここで、とにかくゆっくり休みなさい。狭いベッドで悪いけれど一緒に寝よ」
そしてバスローブを着せてくれて、横にさせてくれる。俺は、隣に温かな体温を感じながら、ひたすら眠気が訪れるのを待っていた。
「ひっく……ぐ……う゛っ……」
声を出さないようにこらえていたのに、嗚咽が漏れてしまう。
「……康、寝れないね。大変だったね。もうすぐ朝になるわ。あなたはこれからどうしたい?」
背中越しに温かい手が肩に添えられる。
「…お、おれ、ここにはいたくない。今すぐ日本に帰りたい」
「……分かった。サイモンに聞いてみる。少しでも寝よう。それがあなたの薬だよ」
そしてその優しい手は、俺の背中を撫で続けてくれた。
──────
最悪だ。
頭がガンガンする。
ジョシュアは、ベッドで痛む頭をおさえた。
昨日のクリスマスディナーのどこかで、食べ物か飲み物に薬を入れられたのだろう。デザートあたりで急に胸が苦しくなって、そのまま退席した。
おそらく催淫剤だろう。無理やりラットを引き起こされて、Ωが、康が欲しくてたまらなくなった。必死で自分の部屋に帰ってきたと思う。理性は、欠片くらいは残っていたはず……と信じたいが、自信はない。
欲望のまま、康を何度も抱いて、少し寝たけれど、薬はまだ効いていて、吐き気がするほどだった。ベッドで吐くのは、一緒に寝ている康がかわいそうなので、風呂で半身浴しながら汗とともに薬が出ていくのを待っていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
酷い頭痛で再び目が覚め、今度は這うようにベッドに行き、あっという間に眠りに落ちた。実は日本にいてモデルや俳優をしていた時にも何度か催淫剤を盛られたことがあった。けれどこれほど理性をぶった切ってくる感覚はなかった。
薬を盛ったやつは、きっと俺をゾウか何かだと思っているに違いない。明らかに人間の許容量を超えていないか?
そうして、ようやくベッドから身体を起こせるくらいになったのは、25日の夕方近くになっていた。
そしてこの時すでに康は、この屋敷からも、この国からも姿を消していた。
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