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第9話 おわり

 ゲホッゲホッ。急に喉が苦しくなり、咳をしながら身体を起こす。とたんに、腰に痛みが走り、身体を丸め、うめきながら咳き込む。  目が覚めてみると、あれだけ熱かった身体も、だいぶ熱が引いてきている。枕元のチェストには、ミネラルウォーターのペットボトルと、一錠封が切られたアフターピルの包装材があった。ジョシュアが飲ませてくれたのだろう。  そして隣には、すやすやと眠っているジョシュアがいた。ホッとしてため息が漏れる。また朝起きて、一人だったら寂しすぎるから。  起き上がって、ふとうなじに手をやると、ザラリとした手触りがする。手には乾いた血が付いていた。……ようやく噛まれたんだ。ヒートが見せた夢かもしれないと思った気持ちが飛んで、ようやくじわじわと番になったことを実感する。  嵐のような日々だった。ジョシュアに再会してから、自分の人生の歯車が急に回り始めたようだった。  それでも今は、ジョシュアとの出会いは、いわゆる奇跡というものだったのだと思う。  これだけたくさんの人間がいる中で、たった一人の運命と思える人に出会ったのだから。たとえ自分と相手が、地球と月くらい離れていると思っても。どれだけ結ばれないと感じても。  正直、番になった今も、ジョシュアが"運命の番"だったのか、自信はない。でも自分で選んだんだから、ジョシュアを俺の運命にするために努力してみようと思う。それしか、俺にはできることがない。  一人でかたく決意していると、もぞもぞとジョシュアが動き出した。 「…おはよ」 「……康。早いね?…… おはよ」 「目が覚めたんだ、さっき」  ジョシュアがうーんと身体を伸ばして、欠伸をする。まるで綺麗な肉食獣みたいにしなやかだ。 「まだ朝早すぎるよ。おいで、こいよ」  そう言って両腕を広げたジョシュア。俺は、さっきの決意とともに、そのたくましい胸に飛び込もうと少しだけ微笑った。    終

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