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第1話〜焼きそばパン買ってきましたァァァー!!〜

「焼きそばパン買ってきましたァァァー!!」  キーボードを打つ音がピタリと止み、水を打った静寂が部屋を支配する。 「……あの、俺。まずかったでしょうか」  誰も応えてくれない。 「あの、先輩」  カタカタカタカタ  真っ先にキーボードを打ち鳴らす音が聞こえたのは、部屋の一番奥。先輩のデスクだ。 「焼きそばパン」  カタカタカタカタ  聞こえてない? 「先輩、焼きそばパン買ってきましたァァァアアーッ!!!」  カタ  キーボードを打つ手が止まった。  やっと気づいてくれた。  しかし何だ?この異様な空気は……  まるで護法魔王尊が降臨したかのような…… 「今、何時だと思ってるんだ?」 「12:12、すみません。12分遅刻しました」 「そうじゃないよ。まだ就業中なのだが?」 「でも昼休みですよ」 「うちの課は交代で昼休憩を取っている。全員で休憩する時間は定めてない。つまり……」 「つまり……」 「就業中だ」  ヒィィィー  護法魔王尊の如く、悪鬼滅殺のオーラを醸していたのは俺が原因だ! 「すみませんっ!」 「分かったなら出ていきたまえ」 「でも焼きそばパン」 「………」 「えっと、ここに置きますね」 「………」 「焼き芋パンの方が良かったですか」 「そんな不気味なパンは要らない。焼きそばパンも頼んでない。ここは高校の部活か」 「ヒッ……でも焼きそばパン、美味しいですよ。シェフがフランスに3年修行して開いた店なんで……」 「これ以上、邪魔すると……」  クイッと人差し指が眼鏡のブリッジを押した。  先輩が本気で怒る合図だ。 「失礼します。また明日!」 「来なくていいよ」  ……先輩は焼きそばパンを喜んでくれない。

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