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第2話~コークは要らない~

「ヒャっ」  額に冷たい物が当たって悲鳴を上げた。 「いーづーるー」  のけぞった俺を待ち構えていたのは見知った顔だ。 「涼平、ひどいな」 「何度も呼んだんだけど全然気づかなかったから」 「ごめん」 「はい、コーク。好きだろ」 「ありがと……って。俺、炭酸苦手なんだけど」 「コークが好きなのは、真藤さん。それ持って謝りに行けよ。またやらかしたんだろ」  うん…… 「先輩、俺の事忘れちゃったのかな」  社会人になって再会した先輩は素っ気なかった。  第一声が『なんで君がここにいるんだ?』だった。再会を喜んでくれると疑わなかった俺に氷のように突き刺さった。  それでも事ある毎に……何かと用事を作って先輩に会いに行くけれど、先輩の態度は冷ややかだった。  もう忘れちゃった?  Ωの俺が高校の時、初めて発情期を迎えて……甲斐甲斐しく世話をしてくれたのは先輩だった。  外見上の生殖器による雌雄の性別が第1性。  実際の生殖による性別を第2性という。  αとβは生殖器通りの性であり、Ωは放精による生殖はできないが雌雄に関わらず受精できる。  社会的には生殖と全能力で遥かにβとΩを凌駕するαが2つの性を支配し、Ωは社会のヒエラルキーの一番下。  支配される側である。  しかし先輩はΩである俺を差別する事なく、救いの手を差し伸べてくれた。  大嫌いだったΩ性だけど、αである先輩といる時は幸せを感じた。  でも幸福を感じていたのは俺だけだったのだろうか。  先輩はΩの俺を憐れんで親切にしていただけで……本当は鬱陶しくて。  高校を卒業してやっと縁が切れたのに、同じ会社で嫌な思いをしているのかも。  課が違うからまだ救いだ。  これからは、なるべく先輩と顔を合わせないように…… 「ごめん。せっかくフランスで修行したのに、焼きそばパンなんて変な物作らせちゃって」 「えっ、なに言ってんだよ。焼きそばパンもれっきとした料理だよ。作ってて楽しかったぞ」 「でも……先輩食べてくれないと思う」  嫌そうな顔してた。 「コークも要らない。先輩、俺の事嫌いだから」 「ちょっ、どうしてそういう結論になる」 「もう先輩とは会わない方がいいんだ。今までありがとう。今夜、お前の店行く。試作の焼き芋パン、先輩に渡せないけど、俺楽しみにしてるんだ。食べさせて……って、俺が頼んだんだよな。先輩に食べてほしいからって。結局、俺が食べるんだけど……あれ?なに言ってるんだろ」  どうして饒舌になるんだろう。  視界も滲んできて……おかしいな。涼平の顔もよく見えない。 「……いづる」

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