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第8話~ここから先はトップシークレットです!~ 【完】
エレベーターに押し込められた俺は地下のシャワールームに連れ去られた。
無論、先輩の手によって。
謝る言葉もない。
どうして炭酸を持って走ったんだ。
「ここには誰もいない。名前で呼びなさい」
「……郁実さん」
「よくできました」
チュっ
額にキスが落ちた。
「コークを掛けてくれたのは最高のアクシデントだよ。こうして二人きりになれた」
「怒ってない?」
薄いレンズ越しの黒曜石の双眸はとても優しい。
「派閥争いがあって巻き込まないように君を遠ざけていた。すまない」
「俺こそ、事情を知らずに。派閥の事は築島課長から聞きました」
「後でゆっくり話そう。シャワーを浴びてから」
コークで汚れた白いシャツを脱ぎ捨てた。
眼鏡も。
久し振りに見たレンズのない玲瓏は、濡れた光を帯びて美しく妖艶な輝きを放っている。
「シャンプーはそこの台の物を使う。君にはコークを掛けたお詫びに背中を流して貰おうかな」
「は、はい!」
郁実さんと二人でお風呂。
心臓がバクバク鳴る。壊れそう。
「大人二人が入るには狭いが君となら問題ない。服を脱いだら早く来るんだよ」
「はいっ」
言われた通り、服を脱いでシャワー室のドアを開けた。
湯けむりの中、均整のとれた筋肉が浮かび上がる。
「せっかくだから髪も洗ってもらおうかな」
濡れた黒髪を持ち上げた時……
ヒエェェェエエーッ!!
色鮮やかな昇り龍が郁実さんの背中に★
「二十歳の時に墨を入れた」
「郁実さん、もしかして」
「藤龍会次期組長だが築島から聞いていなかったか?」
「築島課長も!?」
「若頭だ」
「じゃあ、この会社」
「藤龍会経営だが上場企業だぞ」
知らなかったー★
「俺が恐いか」
「次期組長よりもパソコンの前で仕事してる郁実さんの方がずっと恐いです」
チュっ
「郁実さんは郁実さんだから好きなんです」
「ありがとう。愛している、いづる」
チュっ
「恐がられても離す気はない……眼鏡は外した。この意味を知ってるかな」
「お風呂では眼鏡が曇るから」
「違うよ。αはレンズで光彩を遮る。運命のΩを見ると欲情するから……」
「じゃあ」
「君に興奮している」
ピチャン
水滴が跳ねた。
「キスだけじゃ終わらないよ」
ここから先は甘い罠。
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