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第4話

宿泊ホテルは スタジオから車で5分ほどのところだった。 関係者全員で宴会場で夕食をとった。 ボクは悠一さんと拓也さんと 端っこで瓶ビールを互いに注ぎあいつつ 豪華な海鮮料理を堪能した。 櫻井春瑠は与謝野先生と一緒に スポンサーやディレクターに囲まれている。 ボクは酒に弱いのを理由に 一段落ついたところでひとり早々退散し 屋上の露天風呂へ向かった。 今日は面白かったなあ。 撮影の場面をひとつひとつ思い出しながら 空を見上げると 星がたくさん見えた。 キリリと冷えた空気に 熱めの湯が心地よい。 遠くに波音が聞こえる。 伊豆と似ているようで、全然違う。 空が、ここはずっと広い。 きっと山が遠いからだ。 砂浜も広い。 遠く見えなくなるまで続いている。 そして波だ。 ここの海はどこまでも広くて 波も風も激しい。 自然のスケールを感じる。 その自然の中に、 濡れてきらめく櫻井(さくらい)春瑠(はる)。 そして、 ボクの腕の中で 小刻みに震えながら微笑む櫻井春瑠。 キュンと苦しいくらい 胸がいっぱいになる。 「あーきーくん!」 思わず飛び上がる。 わ、櫻井春瑠! 「あ、あれ? 宴会はもういいんですか」 「ウン、ああいうのはね、  ちょっと顔出せば十分だから」 「へ、へええ、そうなんだ」 「ここの露天風呂、良いって聞いてたからさ  楽しみにしてたンだ。  なにアキ君、そんなかたくならなくても。  驚かせちゃった?  今日はありがとネ。  まさか海に入るとは思ってなかったからさぁ~  ビックリしちゃった。  アキ君いなかったら凍え死んでたー」 「ボクもびっくりしました」 「アキ君て、学生なんだってね。  この中で一番、年齢近いよね。  ボクの現場、同業以外なかなか  同年代いないからさ。  ギュッとしてくれて  嬉しかったな~」 「あ、あれは!  す、すみませんでした!」 「なんで謝るの。  嬉しかったって言ってンのに」 ボクは 茹ったのかなんだか クラクラする。 「じゃあちょっと、こっち来て」 言いながら櫻井春瑠が湯の中 ボクに接近してきた。 ああ、まぶしい! 思わず目をギュッと閉じる。 すると櫻井春瑠がボクの頭をグッと引き寄せ 次の瞬間 ボクの頬にやわらかいものが触れた。 思わず目を開く。 櫻井春瑠はもうボクから離れていた。 「アハ アキ君かわいい。  今の、今日のお返しだよ!  明日もよろしくね~」 そう言って櫻井春瑠は風呂を上がって行った。 なになに、何が起こった!? え、あれってキス? もしかして、キス? キスだよね? もう、胸が痛い。 ナニコレ ナニコレ! このままボク 死ぬかも。 風呂から上がって布団に入ったが 全然眠れない。 心臓がバクバク、 布団が跳ね上がるんじゃないか。 翌日も、心地よい緊張感のうち 撮影は無事終了した。 が、実を言うと頭がボーッとして よく覚えていない。 帰り道、与謝野先生がポルシェの助手席に乗せてくれた。 「どう、広告も面白いだろ」 「はい! 広告やりたいです!」 「アハハ 天塚君、おちたな」 翌年ボクが先生の事務所に就職することになったのは、その後のお話。

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