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第3話
午後の砂浜は海風が強く
しっかり持っていないとレフ版が吹き飛ばされそう。
間もなくやってきた櫻井 春瑠 は
大判のブランケットにくるまって、裸足 にサンダルという姿。
「じゃ、いこうか」
先生が言うと、
櫻井春瑠はブランケットをとってボクに手渡した。
ブランケットの下は、
薄いリネンのシャツに短パン。
ボクは受け取ったブランケットを肩にひっかけて
レフ版をかざす。
「天塚君、もうちょっと上向けて。
ああその位置ね。
はいハル、目線こっちにくれる?
いいね、その感じ。
ちょっと右腕を海の方にかざしてみようか。
そうだね、ちょっと笑うのもいいね」
ビュービュー風が凍てつく冬の海辺が
櫻井春瑠の周りだけ
夏になっている。
凄い。
ボクの目は櫻井春瑠にくぎ付けだ。
与謝野先生が一旦
カメラの液晶に目を落とした。
ボクは櫻井春瑠に駆け寄り
ブランケットを彼の両肩に掛けた。
櫻井春瑠は小さく震えている。
「ハル、いいね。すごくいい。
だけどうーん、もうちょっと夏っぽいの欲しいな。
海、入るか」
「うぇー海ですかぁ、
わっかりましたぁ」
櫻井春瑠はボクに短く笑顔を向け、
ブランケットを手渡すと
波打ち際へ走った。
先生がカメラで櫻井春瑠を追いかける。
櫻井春瑠の白い足首を白い波が濡らす。
「うわ~冷たっ!」
楽しそうに声を上げて笑う櫻井春瑠。
「いいねぇ、
もう泳いじゃえ。
衣装それ、濡れてもいいんだろ?」
「まじっすか。
いきますよぉ~!」
バシャバシャと腰あたりまで海に入り
両手で海水を高く跳ね上げる櫻井春瑠。
波のしずくがキラキラと
太陽の光を浴びて
宝石のようにきらめく。
「うわ~ もう限界ですぅ~
もういいっすか~」
「いいよぉ~
良いの撮れたぞ~
おつかれ!」
先生がカメラを下ろして右手を上げると
櫻井春瑠がボクの方に駆け寄って来た。
「うわ~ 寒っ!」
ボクはブランケットを拡げて櫻井春瑠を受け止め
思わず頬をくっつけて抱きしめていた。
「アキ君あったか~い アハ」
「天塚君、そのまま連れてけ。
早くしないと風邪ひくぞ~」
「お先です~
先生ありがとうございました~」
そのままハウススタジオの風呂場に直行。
別のスタッフがお湯をはって待っていた。
「アキ君も一緒に入る?
冷えたでしょ」
「いや、ボクは大丈夫です。
ハルさんゆっくりあったまってください」
扉を閉めながら
ボクの心臓は
周囲にも聞こえるくらい高鳴っている。
たぶん寒さのせいだ。
けど、
海での櫻井春瑠の姿が強烈に
ボクの意識を支配している感覚はある。
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