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期間限定の恋 1冊目
同世代の連中ばかりの中
たった一人
誰と話すでもなく
ぼんやりとしていたそいつに
「また来年」
そう声をかけた理由を
俺はまだ わかっていない
秋に入ると届く、郵便局からの短期アルバイト募集のハガキ。アルバイト禁止の学校に通っている俺には都合の良いものだった。年末年始は教師たちも生徒の生活チェックをするより、家族で過ごす方が大切だろう。
そうして俺は年末年始を郵便局で過ごすようになって三年目。配達の方が時給は高いけれど、寒いのは嫌いだから内勤を希望してバカみたいな量の年賀状をひたすら仕分けていく。
小学校低学年の頃くらいまでは、親が用意したハガキへ一言を添える程度の年賀状を書いた記憶はある。以来、俺には無縁なものだったから、初めて山のように収集されてきた年賀状を見た時、あまりの多さに引いたくらいだ。
少し分厚い紙っぺらは、たまに手を掠めて切り傷を作ってくれる。これがまた地味に痛い。
作業自体はたいした事のないものでも、とにかく量が半端ないためにアルバイトが終わるとしばらくはハガキを見るのも嫌になる。
そんなくだらない話を二年間してきたはずなのに、今年の俺は一人で黙々と仕分け作業をしていた。
内勤が忙しいのは年内で、年が明けてしまえば一気に量が減る。それでも指定された期間、出勤すればどんなに暇でも給料はきちんともらえるのが非常にありがたい。
朝イチからのアルバイトを終えて郵便局から出ると、太陽は空高くから暖かそうな光を放っているのに、吐き出す息は白くけむった。
時刻は昼間の十二時を過ぎていても、冬の空気は冷たく乾いている。マフラーを口元まで巻き付けて、両手をコートのポケットにしまい込み、背中を丸めて歩き出した。
たった一ヶ月程度のバイト。
気楽でいいと笑い合ったあいつは何故いないのだろう。
二年前に「また来年」と言って別れたけれど、再会すると思っていなかった俺は変わらぬ笑顔に嬉しくなった。
だから一年前も同じ言葉を告げられ、また会えると勝手に思い込んでいた。
連絡先なんて知らない。
考えてみたら名前も苗字しか知らない。
俺はあいつの事を何も知らなかった。
友人と言っていいのかもわからない程度の期間限定な関係に過ぎなかったのだ。俺にとっても、あいつにとっても。
大学に入れば日常的にアルバイトが出来るようになるから、わざわざ隠れるように働く必要はなくなる。あと数日ですべてが終わり。
溢れたため息はやっぱり白い。
郵便局から五分もかからない公園の横を通り過ぎて、そこから十五分足らずの距離に俺の自宅はある。あいつは途中で曲がり、さらに二十分ほど先に自宅があるらしく自転車で来ていた。
お前も自転車で来ればいいのに、と言われて歩く方が好きだと答えたら笑われた事を思い出して胸の奥が痛んだ。
また、会えると思っていたのに。
会ったら、聞きたい事があったのに。
伝えたい事が、あったのに。
「お疲れ」
不意に声をかけられて俯いていた顔を上げると、懐かしい姿があった。
―― あいつだ。
公園の入口にある柵へ腰かけて俺に向けて軽く手を振る。公園内が賑わっている事にやっと気付いたくらいに、どうやら俺は自分の世界に閉じこもっていたようだ。
「やっぱ今年もやってたんだ。あ、去年か? 紛らわしいな」
笑う時にほんの少しだけ下を向くのが癖なのか、ただでさえ細く目尻が垂れ下がった目は閉じられたように見える。
「……お前は何してんの?」
同い年なのにその笑顔が年上の男の色気のように感じて、初めてドキッとした事も、俺がその瞬間を鮮明に覚えている事も、理由もすべて知らずに彼は笑うのだ。
「何って、お勉強に決まってるじゃん。俺ら受験生でしょ」
俺としては今ここにいる事に対しての「何」だったが、バイトをせずに「何」をしているのか問われたと思ったようだ。
「あぁ、そうか。そうだった」
「なにそれ。随分と余裕だな」
「余裕っていうか、もう決まってるから」
「マジで?狡くね?」
「受験に狡いとか狡くないとかあんのかよ」
ふはっと自然に笑みが零れた。
つい先ほどは白いため息をついていたのに、今はぬくもりのある白さに変わっている。
我ながら単純すぎるな、と心の中で嘲笑した。
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