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第1話

近年、ランド海周辺の国々ではとあるものが大流行していた。 それは剣闘士による真剣試合。 遠方の各国からは正気の沙汰ではないと揃って眉をひそめられたが、ランド海周辺5つの国々の指導者たちはこぞって国立の闘技場を建設し毎日のように試合を行った。 剣闘士たちの生まれは様々で、剣闘士となった理由もまた様々だが、彼らの世界は誰にも例外なく惨くて厳しい。 剣闘士試合は基本的に賭け試合であるがために、観客を沸かせ満足させる必要がある。そのためにはどうすればいいか。答えは簡単。人間とは血肉飛び散るその様にいっそ感心するほど大げさに興奮する生き物である。 剣闘士たちが闘技場の舞台に立ったら、待つのは勝利か死。 殺されなければ殺される。まさに死に物狂いで血のこびりついた真剣をふるう彼らを、国民は野次と歓声を飛ばしながら観戦するのだ。 闘技場を見れば国の様子や発展度が分かると言われるほどこの一大産業は活気づき、国々は競い合うように闘技場の整備と剣闘士試合の活性化に力を入れ始めた。 ミアーネ国もそんな国のひとつ。特にミアーネは領土が小さく長年他国から下に見られがちだったために、闘技場にかける指導者たちの想いも並々ならぬものだった。 ルドゥロは、そんなミアーネ国のNo.1剣闘士として名高い男である。 ボリュームのある赤い長髪に、鍛え上げられた身体。 胸板は分厚く、二の腕や腹筋は力強く隆起している。褐色の肌には剣闘士とは思えないほど傷が少なく彼の強さが簡単にうかがい知れる。 剣闘士にとって負けは死と同義なので、現在闘技場に立っている剣闘士たちは皆負けなしの強者ではあるのだが、ルドゥロの強さは桁が違った。 下手すれば一振りで対戦相手の命を奪う圧倒的強さと、作り物のごとき体と顔の美しさで、彼はミアーネ闘技場の人気・実力ともにトップだとされている。 それに加え、彼は『α』だった。 αとΩ。 第2性と呼ばれる性別のことで、生殖機能に密接に関係するといわれている。 Ωは妊娠に有利ないくつかの体質をもち、特にヒートと呼ばれる周期的に訪れる生理的期間では着床率は爆発的に跳ね上がると言われている。一方で男性型Ωの場合は作られる精子が少なく妊娠させることが難しさや妊娠率の高さに比べ出産率の低さが課題点とされている。 逆にαは、妊娠させるのに有利な体質をもつ性だ。ラットと呼ばれる生理的期間がこちらにもあるが、Ωとは違い周期的ではない。作られる精子の量や質が高いとされ、その影響かαの人間は身体能力や頭脳が優れている場合も多い。 同性同士で結婚することも、Ω同士であれば子供を産み育てることも、どちらも当然可能だが、やはりαとΩのカップルの方が結ばれやすく子孫もできやすい。そんなαとΩのカップルで特別強い契約を結んだ2人のことを『番』と呼ぶ。その結びつきの強さとは違い番契約は簡単で、「αがΩの項を噛む」のみである。 αもΩも本能的に番を探すため、同性には分からないフェロモンを出すということも有名だ。そのフェロモンの制御が効かなくなる期間のことがヒート、もしくはラットなのだ。 ほとんどの人は生まれたときに、性器にノットと呼ばれる瘤のような器官があるかないかで第二性を診断される。 今では、見た目にしか影響のない第一性より第二性の方が断然重要視される事の方が多い。 さて、つまりはルドゥロはまさにαらしいαだった。 彼の人気の高さはΩからもαからも留まるところを知らない。 彼が出る試合は賭けにならぬと嘆かれるほどで、いざ試合に出ればあっという間に席が埋まる。 まるで道具のように扱われる剣闘士にもかかわらず国民のスターのような地位を確立した稀有な男、それがルドゥロだった。

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