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第2話

「どうした?立ち上がれよ」 「…………」 「……ハァ」 ルドゥロはため息をつくとともに、俯きに倒れていた相手の背にドッ、と片手で剣を突き立てた。 皮と骨を断ち切る感触がして、じわじわと闘技場の舞台に赤黒い絵の具が染みていく。 『勝者は!やはり!ルドゥロだ~!!』 ウォォォォォォォォオ!!! 場を煽るように裏返った声で叫ぶ司会者と、建物が揺れるほどの歓声をあげる観客。 それらすべてに背を向けて、ルドゥロは早足で控室へと引き返した。 ***** 「フゥ……」 控室の椅子に腰かけて、両肘を膝についた前傾姿勢で大きくため息をついた。 この控室は別にルドゥロ専用ではないはずだが、ルドゥロが決まっていつも使うので、いつの頃からか誰も近寄らなくなった。 「ああ…つまらない」 組んだ両手を口元に添えてぼそりと呟く。 彼にとって今日の試合はまさに「つまらない」ものだった。 焦りからかめちゃくちゃな太刀筋とかすりもしない剣。この闘技場で一年生き抜いた強い剣闘士だったはずだが…圧倒的強者の前に死の恐怖を感じ錯乱したのか、試合はあっという間に決着がついてしまった。 ルドゥロが様子見をしていた時間がなければもっと早くに終わりを迎えていただろう。 闘技場で10年生き抜いた強者は、対戦相手を脇腹への大きな一振りとすかさず放った右足へのもうひと振り、そして倒れた背中への深い一突きで下した。 本当のところはルドゥロの実力であれば格下相手に命奪わずとも気絶だけさせることはたやすい。だが観客や支配人たちが求めるのは、より高い残虐性と人の死という興奮。暗黙のルールを破れば、たとえスター選手であるルドゥロとて理不尽な責めを受けかねない。 それに、ここでは敗者に施されるものは一切存在しない。死んだものとして扱われるため治療もしてもらえなければ食事ももらえない。それでもなお剣闘士は闘技場から出ることを禁じられているので、ゆっくりと弱っていくしかないのだ。そんな苦しみを受けさせるのならばいっそ、というのが剣闘士たちに共通している思いだ。 コンコン 「入ってくれ」 扉が軽く叩かれる音にルドゥロが返事をすれば、キィ…と控えめに扉が開いて闘技場運営員の服を着た男が入ってきた。 「ルドゥロ選手、治療を」 「ああ、よろしくお願いするよ。とはいっても怪我などしていないんだけどな」 救急箱を抱えた運営員がルドゥロの体の隅々まで確かめるが、彼の言葉通りどこにも怪我は見当たらない。 首から上と肩から腕にかけてを完全に露出して戦っていたにもかかわらず、そこにもかすり傷ひとつ見つけられなかった。 運営員は小さく会釈をして使われなかった救急箱を手に部屋を後にした。 ルドゥロはそれを見送り、扉が閉まったのを確認するとドス、と背もたれに体を預けた。 「ああ、つまらないなあ」 再び嘆く彼の願いはひとつ。 強い試合相手と心躍る試合をしてみたい、ということだけ。

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