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第14話

「ああ、確かにとても美しい方だな」 「お噂以上に美しいですね」 微笑み見つめ合いながらお互いを褒めたたえる2人。 彼らを見ながらマルタはほう…とため息を零した。 「いやはや…こうしてみるとやはりルドゥロ殿もリヴァーダも美しく、並ぶとなにかの絵画のようですな」 「はは、それは光栄です」 「ええ、ほんとに」 すらりと高く鍛えられた体躯や褐色の肌は同じでありながらも、髪は燃えるような赤と落ち着いた黒、目つきもルドゥロがややつり目でリヴァーダは柔らかく垂れている。 対照的な2人でありながら、確かに2人が並ぶさまはどこかしっくりとくる所があった。きっとマルタでなくとも感嘆の声を漏らすだろうし、知らぬ人が見れば到底剣闘士だとは思いつきもしないだろう。 ニコニコと微笑むリヴァーダを挟んで、またルドゥロに向けて長い話を再開しだしたマルタ。 その背後から駆け寄ってくるのは2人の運営員。 先ほど怯えつつ駆けだした若い運営員と呼ばれた先輩運営員だ。 彼らはマルタに話しかけ、大きな身振り手振りで退出を促す。 マルタは顎の肉を揺らしながら鷹揚に頷いて見せた。 「では、私はこれで」 「はい。お会いできて光栄でした」 くるりと回れ右をして、リヴァーダが自分についてくることを疑いもせずに、運営員たちにのしのしとついていく大きな背中をルドゥロは見送る ……ことも許されず、ぐんっ、とかなりの力で近くの部屋に引きずり込まれた。 「んふふ、捕まえちゃった」 舞台装置や机が乱雑に押し込まれた倉庫。 光源のないそこで、キラキラと光る一対の目が飢えた野生動物のようにルドゥロを見つめ、壁に押し付けていた。 「…はは、俺が捕まえるつもりが捕まってしまったな」 「んふ、俺に勝とうなんて百年早いぜぇ?」 「…リヴァーダ」 「ン…」 ルドゥロは自分を押さえつけてくるリヴァーダに手を伸ばし、その丸い頭を抱え込む。後ろに回した片手で刈り上げた襟足のざりざりとした感触を楽しみながら、恋しい人の唇を食んだ。 時折2人の笑い声が漏れつつ、角度を変えながら長く長く口づけが交わされる。 「はぁ……」 「ダメだろう…こんなに無防備にフェロモンを出したりして…」 「んん…」 どちらからともなく口を離した後、苦言を呈しつつすかさずルドゥロはリヴァーダの首から肩にかけての筋にかぶりついた。そこそこの強さだったので思わずリヴァーダが呻けば、噛む力は弱まった。 しかし、あぐあぐと甘噛みを繰り返したまま、ルドゥロは不満を主張する。 「ふふ、やっぱ気づいてたんだな」 「姿が見える前から分かったさ…気が気じゃなかった。他のやつに欲情されたらどうするんだ」 「誰も分かんないよ、こんな薄さのフェロモンなんて」 「薄いわけあるか」 すんすんと首元で匂いを嗅がれるくすぐったさにリヴァーダは声を出して笑った。が、「あまり声を出すと他人が見にくるぞ」と生真面目に言われたのは面白くなかったので頭をはたいておいた。 ところで、実際のところリヴァーダは、本当にヒートの時の十分の一にも満たないくらいしかフェロモンを出していなかった。そこまで器用にフェロモンを操れるの人物はあまりいないが幸いリヴァーダは得意だった。久々にあう恋人にアピールしたい気持ちもあるとはいえ、リヴァーダとしても他人に欲情されるなど反吐が出そうだったので、ルドゥロなら気付いてくれるだろうという薄さのフェロモンをそっと出しておいたわけだ。 予想通り、というか予想以上に愛しい恋人は自分の匂いに敏感らしい。 本格的なヒートの時は本当に一体どうなるんだろうかと、少し案じた。 「相変わらずいい匂いだな。くらくらしそうだ…」 「ほらほら、あんまり嗅ぐとラットに入っちゃうぜ?あれも可愛くて好きだけど今なっちゃうとちょっと困るな」 「むぅ…」 「可愛い顔してもだーめ。  それより時間は限られてるからな、色々話をしよう」 「ああ、そうだな。あらかた察してはいるが説明してもらわないといけないことが沢山あるな」 ルドゥロはガリ、と金色のチョーカーを爪で引っ掻いた。 リヴァーダはやや引き攣った笑いを返す。 「はは…お手柔らかに」

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