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第17話

宵闇のなか、カツ、カツ…と全く忍ぶ気のない足音が広い広い屋敷の底辺に響く。 その足音がやがて止まった時、キィと微かな音をたてて裏口が内側から開かれた。 「……ルドゥロよ。少しは静かにきてくれ」 「すまない。どうせバレるからいいかと思ってな」 「まあ、そうだけど…バレないならバレないに越したことはないぜ」 「そうだな、気をつけよう」 ここは、貴族サルロ邸。 未婚の身では持て余すような広い土地に堂々とした石造りの屋敷と手入れの行き届いた庭園と広々とした広場なんかがある。 厳重なはずのその屋敷を内側から開いたのはもちろんリヴァーダ。 大人しく従順な『愛人』を演じていたおかげで、マルタからリヴァーダへの警戒はゼロに等しく、警備が手薄になる時間帯を把握することも裏口の戸を自由に開閉することも容易だった。 また、ルドゥロとてこの数か月何もせずにいたわけではない。 あらゆる可能性を考えて、闘技場から完璧に出る方法を考え準備を進めていたのだ。闘技場に併設した選手寮と闘技場を繋ぐ通路は他と比べると壁が薄く夜になれば人通りも少ない。また、箱状になったその通路の外は闘技場と寮の隙間、完全に闘技場外なのだ。様々な下調べでそれを知ったルドゥロはそこにせっせとヒビをいれ、蹴破って出てきた。かなりの音がしたはずだが、まあ、それはそれだ。リヴァーダにバレなければお小言もなしだ。 「標的は?」 「寝室。案内するぜ」 「ああ」 本日、2人の目的は|標的《マルタ》の命を奪うこと。 金で買った買われたという関係上、どうしてもリヴァーダの身を縛る契約が出来てしまっている。 そこで契約を解除するのではなく、契約を無効にするために契約者の片方を亡き者にしてやろうという脳筋思考である。 いや、マルタを脅すだけ脅して契約を失くす、もしくは何もせず放置して逃げるという案もルドゥロの中にはあった。しかし、おそらく契約を結ばされているのは奴隷扱いされているという他の『愛人』たちも同じ。彼ら彼女らの契約も脅して破棄させたとて、行く当てのない彼らが再びマルタにつかまってしまえば意味がない。 何よりマルタの『愛人』達への扱いに心底ご立腹らしい恋人の要望に最大限応えることがルドゥロの最優先事項だった。 「さて、行くか」 「おう」

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