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第18話

「ここだぜ」 「なるほど、わかった」 屋敷の中でも特別大きな扉の前でリヴァーダが立ち止まり、着いてきていたルドゥロを振り返る。 ルドゥロが頷いたのを確認してリヴァーダはさっさと扉に手をかけた。 「これでさ、逆に騙されてて全然違う部屋とかだったらどうするよ?」 「はは。それならそれで、やるべきことをやるだけだな」 「ま、そうだよなっ、と」 な、の部分で腕に力を込め、リヴァーダは扉を開け放った。 中は当然ながら真っ暗。 しかしここまで闇の中を歩いてきた2人の目はしっかり闇に慣れていた。 危なげない足取りで、天井まで伸びた4本の支柱に囲まれた見るからに高級そうなベッドに近づいていく。 リヴァーダとルドゥロ2人が寝ても余裕がありそうな大きなそれを、丸々としたこれまた大きな塊が占拠している。 「これがマルタで間違いないか」 「ああ。てかお前会ってるだろ、1回」 「君しか見てなくてよく覚えてない」 「そんな小っ恥ずかしいことよくもまあ…」 「事実だからな」 「へーへー。それより全然起きねぇな?我が主人ながら心配になるぜ」 確かにマルタは小さく呻き声をあげて寝返りを打ったっきりで、起きる素振りは全くなかった。 2人は呆れた顔でそんなマルタを見つめるが、実際のところ少しでも人の気配があれば目を覚ます2人の習慣が異常であって、常に命の危険に晒された環境で生きたことの無い一般人であれば完全に寝入っている状態のこれが普通だ。 しかし、それを指摘する人間は誰もいないので時はそのまま進んでいく。 「他の人間を主人と呼んでくれるなよ」 そう言いながら、ルドゥロはチャキ、と片手の剣を持ち直した。 この剣は屋敷の廊下に飾ってあった模造品だ。闘技場を国が造るような国民性だ、大きな屋敷であれば剣やら鎧やら物騒な装飾品も多い。 本当はリヴァーダが護身用に持っている小刀で実行する予定だったが、せっかくいいものを見つけたのでこちらでやることにした。 「俺の手綱を握るのは君だけ。君の手綱を握るのも俺だけだ。もちろん伴侶としてもな」 「もちろんさ、ルドゥロ」 愛してる。 そんなリヴァーダの愛の告白が合図かのように、ルドゥロは両手で構えた剣を垂直に振り落とした。 ルドゥロの筋力と試合で培われた感覚があれば、たとえ飾りの模造品であろうと十分だ。 マルタの胸の上で構えていた剣先はそのまま真っ直ぐ落ちていく。 ルドゥロの感覚はピッタリで、刃は骨に当たることなく柔い内臓へと届いた。 「ぐぅ……」 唸るような口の中で籠った呻き声をあげて、マルタが小さく痙攣する。 やがてその痙攣も治まり、静かに息絶えていった。 「さて。行くか」 カラッとした口調でリヴァーダが言う。ルドゥロも軽く頷き手の中の剣を放り投げる。 彼らは別に無理して朗らかに振舞っている訳では無い。正しくなんとも思っていないのだ。 2人にとって他人の命の価値など「その程度」であり、特にマルタはリヴァーダにとってそれ以下だった。 返り血を浴びている訳でもないリヴァーダとルドゥロは、まるで買い物帰りかのように軽い足取りで2人並んで部屋をでる。 誰にも気付かれないまま、ひとつの事件が終わろうとしていた。 「お待ちください」

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