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一、
「オレのこと知ってる?」
キミは、なんてことない感じにボクに微笑んだ。
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政令指定都市のS市にある、中高一貫校の伊慶学園 は、全国でも有名なスポーツ高。
近年は、音楽芸能にも力を入れていて、
その象徴的存在なのが、今年度、中等部から高等部に上がってきた一年の音羽美弦 である。
「音羽さま、おはようございます」
「おはよう」
音羽が、ニッコリと微笑むと、そのコは、嬉しそうに頬を赤らめて、足早に去って行った。
ハァ……。さまって……。 高等部に上がっても、変わらずか。
彼女らの背中を見つめながら、独り言を呟く。
音羽は、箏曲家で生田流国操会家元 音羽詩乃 の孫で、生まれつき色素の薄い髪と瞳、自然にウエーブのついたクセ毛、襟足にかかった少し長めの髪に高身長という、恋愛漫画の王子キャラそのものの見た目もあいまって、学園内だけでなく、他校にも知られている存在だ。
今日は、高等部の入学式。
持ち上がりが殆どだが、両親揃って参加する家が多く、スーツにコサージュを付けた親たちが、桜の花びらが舞い散る中、昇降口に向かって歩いている。
音羽の母親は、幼い頃亡くなっていて、父親は居るが、東京で暮らしている。
寂しいとか、そんな感覚はない。その分、祖母が厳しくも愛情深く育ててくれたから。
音羽は、昇降口に貼ってあるクラス表を確認し、1−Aに、自分の名前を見つけた。
その間も、知らないコたちから普通に挨拶をされ、アイドルのように微笑む。
家元の孫という立場から、仕方なくしているが、本音を言えば、そんな自分に嫌気がさしていた。
クラスに入ると、黒板に席順が書かれていた。
新学期は、出席番号順のため、窓際の席になるのが殆どだった。
安定の窓際だな。
その席に座り窓の外を眺めた。
学園の近くには、プロ野球のホームグラウンドがあり、緑が豊富だ。
街にも電車で一駅という理由もあり、入学希望者が多い。
音羽が気怠げに外を眺めていると、一人の男子生徒が声をかけてきた。
男子から声をかけられるなんて、まず無かったため、勢い良くその生徒を見た。
……えっ?
その顔を目視した音羽は、驚愕した。
「オレのこと知ってる?」
ぇっ……、えっ?!
なんで?
直ぐに返事が出来ないでいると、彼は不安に思ったのか、「音羽美弦だろ?」と、名前を確認してきた。
「……うん」
と、ようやく返事をすると、
「……良かった。オレ、外部受験組だから、知ってるヤツ居なくて。だから色々教えてれると助かる」
その男子生徒は、安心したように隣の席に座った。
「音羽の隣の席でラッキーだな」
そんな言葉をさらっと言える、この男子生徒は_
「ん? オレの名前知らない? 桔梗屋の_」
「ぁ……、もちろん、知ってるよ。桔梗涼雅 くんだろ?」
「良かった。涼雅でいいよ。音羽は?なんて呼べばいい?」
「……ボ、ボクも美弦でいい」
知ってて当然だ。
だって彼は、ボクの初恋なんだから。
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