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一、

「オレのこと知ってる?」 キミは、なんてことない感じにボクに微笑んだ。 ***** 政令指定都市のS市にある、中高一貫校の伊慶学園(いけいがくえん)は、全国でも有名なスポーツ高。 近年は、音楽芸能にも力を入れていて、 その象徴的存在なのが、今年度、中等部から高等部に上がってきた一年の音羽美弦(おとはみつる)である。 「音羽さま、おはようございます」 「おはよう」 音羽が、ニッコリと微笑むと、そのコは、嬉しそうに頬を赤らめて、足早に去って行った。 ハァ……。って……。 高等部に上がっても、変わらずか。 彼女らの背中を見つめながら、独り言を呟く。 音羽は、箏曲家で生田流国操会家元(いくたりゅうこくそうかいいえもと) 音羽詩乃(おとはうたの)の孫で、生まれつき色素の薄い髪と瞳、自然にウエーブのついたクセ毛、襟足にかかった少し長めの髪に高身長という、恋愛漫画の王子キャラそのものの見た目もあいまって、学園内だけでなく、他校にも知られている存在だ。 今日は、高等部の入学式。 持ち上がりが殆どだが、両親揃って参加する家が多く、スーツにコサージュを付けた親たちが、桜の花びらが舞い散る中、昇降口に向かって歩いている。 音羽の母親は、幼い頃亡くなっていて、父親は居るが、東京で暮らしている。 寂しいとか、そんな感覚はない。その分、祖母が厳しくも愛情深く育ててくれたから。 音羽は、昇降口に貼ってあるクラス表を確認し、1−Aに、自分の名前を見つけた。 その間も、知らないコたちから普通に挨拶をされ、アイドルのように微笑む。 家元の孫という立場から、仕方なくしているが、本音を言えば、そんな自分に嫌気がさしていた。 クラスに入ると、黒板に席順が書かれていた。 新学期は、出席番号順のため、窓際の席になるのが殆どだった。 安定の窓際だな。 その席に座り窓の外を眺めた。 学園の近くには、プロ野球のホームグラウンドがあり、緑が豊富だ。 街にも電車で一駅という理由もあり、入学希望者が多い。 音羽が気怠げに外を眺めていると、一人の男子生徒が声をかけてきた。 男子から声をかけられるなんて、まず無かったため、勢い良くその生徒を見た。 ……えっ? その顔を目視した音羽は、驚愕した。 「オレのこと知ってる?」 ぇっ……、えっ?! なんで? 直ぐに返事が出来ないでいると、彼は不安に思ったのか、「音羽美弦だろ?」と、名前を確認してきた。 「……うん」 と、ようやく返事をすると、 「……良かった。オレ、外部受験組だから、知ってるヤツ居なくて。だから色々教えてれると助かる」 その男子生徒は、安心したように隣の席に座った。 「音羽の隣の席でラッキーだな」 そんな言葉をさらっと言える、この男子生徒は_ 「ん? オレの名前知らない? 桔梗屋の_」 「ぁ……、もちろん、知ってるよ。桔梗涼雅(ききょうりょうが)くんだろ?」 「良かった。涼雅でいいよ。音羽は?なんて呼べばいい?」 「……ボ、ボクも美弦でいい」 知ってて当然だ。 だって彼は、ボクの初恋なんだから。

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