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ニ、
周りを生け垣で囲ってある典型的な日本家屋。そこが祖母と二人で暮らしている美弦の自宅だ。
黒い瓦が乗っている門扉の引き戸を開けて、敷地に入る。
日本庭園の中の石畳を歩き、『生田流国操会家元』の看板が掲げてある玄関から家に入る。
「おばあさま、ただいま戻りました」
祖母の自室の襖の前で、声をかける。
「美弦さんおかえりなさい。学校は、どうでしたか?」
「特に、変わり映えは……。ぁ…、桔梗屋さんの息子さんと同じクラスになりました」
「……そう。 仲良くさせていただきなさい。良い刺激になると思いますよ」
「はい。おばあさま。 失礼します」
挨拶を済ませ、自室に戻りベッドに身を投げ出した。
今でも信じられない。彼が入学して来て、同じクラスで、しかも隣の席で、
声をかけてくれた……。
イイ声してたな。
美弦と涼雅が出会ったのは、中学の時、涼雅が彼の父親である桔梗屋さんに連れられて、この家を訪れた時だった。
その日は、国操会の定期演奏会があった。
いつものように演奏会で使用した箏を桔梗屋が届けに来ていて、祖母が対応していた。
「桔梗屋さん、ご苦労さまです。いつもの部屋までお願いしますね。 あら?涼雅くん? 大きくなったのね?」
「はい。コイツも中学に上がったので、これからは、手伝わせようと思いまして」
「おねがいします!」
「はい。よろしくおねがいしますね」
美弦自身、ゲイなのかどうかは、自分でも解らない。
祖母は、家元。亡くなった母も、箏曲家。当然、多くの弟子が出入りしているが、全員が女性。
そんな特殊な環境のせいなのかもしれない。
涼雅が、箏を左右の肩に2台ずつ乗せて運び入れるその姿、逞しさに、気づけば心を奪われていた。
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