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三、

それから美弦は、涼雅のことが知りたくなり、何かと理由を付けて桔梗屋に通った。 「美弦先生、欲しいものがありましたら、主人にご自宅まで届けさせますよ?」 「ぁの……、前にも言いましたけど、先生はやめて下さい。ご近所の、しかも小学生に教えてるだけなので」 「なに仰ってるんですか?先生は先生でしょ? 立派なもんです」 「そういものでしょうか……?」 美弦が、こんなふうに女将…つまり、涼雅の母親に押されるのはいつものことだ。 着物に白い割烹着を着て、長い髪をアップにしているその姿を美弦は、どことなく母親とダブらせて見ていた。 「本当に、美弦先生、主人に届けさせますよ?」 ぁ……、それだ! 「ぁの、それでしたら、ご主人じゃなくて涼_」 「涼雅に配達してもらえたら、こっちも助かるんですけど、あのコ、友達と遊んでばっかりで……」 「……そうなんですか」 「学期毎に連れてくる女のコが違うんですよ? 全く、誰に似たんだか……。ぁ、ごめんなさいね。先生にこんなこと」 「いえ……」 友達って、そっち? 彼女のこと? そこへタイミング良く、涼雅がズカズカと店に入ってきた。 「お袋、4階の作業場の鍵、借りてくぞ」 言うか言い終わらないかの内に、壁に掛かってる鍵を掴んで出て行こうとしたが、 何を思ったのか、振り返って美弦を見た。 あまりにも突然な出来事に、美弦も言葉が出て来ない。 涼雅も、一瞬目を見開いたが、直ぐに出て行ってしまった。 店の外には、派手な見た目の女のコが待っていた。 「あのコは、また……。 お恥ずかしいところお見せしてしまって、ごめんなさいね」 ああ、そうだよ。  ボクは、何を考えていたんだ。 どうして……? 冷静に考えれば解ることだ。 異性に惹かれるのは、当然のこと。 ボクと同じだって、どうして思ったのだろう。 初恋は、呆気なく散った。 それから、美弦が桔梗屋に通うことは無くなった。

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